かわいいの基準を変えるためにSNSで綺麗な錯覚を起こさせる画像を投稿するよりもそもそも美という概念そのものを滅ぼそう

naka-motoo

醜いに分類されていた者がかわいい基準を新たに作るとそれ以外の人が迫害されるからやめてくれ

 映えるという言葉は本当は慎ましやかなものだったろうとわたしは思うんだけどね。


 わたしはカラフルな服は着れないし皮膚も若々しくないしガリガリに痩せているのでふくよかさゆえにシワがよっていない肌をさも美的ポイントであるかのような雰囲気を広めないでくれ。


 わたしがますますみすぼらしい女になっていく。


 わたしの恋人は今の絶望的な状況をどう思っているのかな。


「別に他のひとがどうかは特に」

「特にって、具体的には?」

「ガリガリで肌も乾いてた方がいい」

「こらっ!」


 まあわたしに実害が無いならいいんだけどわたしの職業上影響は避けられない。


 活動家なのだからわたしは。


「そもそも性別の撤廃を!」

「うおー!」

「きゃおー!」

「ゲッホゲッホ!」


 わたしが代表を務める市民団体『戦う映えない女団』の街頭ゲリラ集会を行うと集まってくるのは確かに性の区分や区別を意識させないひとたちばかりで実際に見た目や声だけでは女なのか男なのか分からない。


 ところで『戦う映えない女団』の敵が居る。それは『マッチョな男筋を誇示する会』でもなく『中性爆弾的性の解放軍』でもない。


『かわいい動物のみ保護連盟』だ。


「赤ちゃんでもかわいくない動物は排斥します」

「SNSでフォロワー10万人以上の犬猫を上級ペットとします」

「かわいい動物を飼っている飼い主の消費税を減税します」


 これはまだマシな活動方針であって、ダークな部分が次のようなものだ。


「醜いペットの買取・処分サービスを始めます」

「ペット同様醜い人間の赤ちゃんを隔離します」


 そして。


「映えない女子を駆除します」


 人間も動物であるという視点からという意味では赤ちゃんも成人女も差別をしない奴らの中途半端な平等主義にわたしたちは恐怖した。


「ね、ねえ。どうする?駆除って何されるの?」

「わかんないけど・・・まさかそんなこと本当に」

「やるよ奴らなら」


 わたしには奴らの迫害が現実となる可能性を持つニュースに戦慄していた。


「『かわいい動物のみ保護連盟』がペットの安楽死サービスを始めました」


 わたしたちはその内容に驚愕した。


「ペットのかわいらしさを5項目で点数化。40点未満は赤点とみなし麻酔を使用して安楽死させます」


 点数だって・・・・・

 殺す理由の視える化だよねこれって。


「対抗措置を取らないと」


 うーん。


 うーん。


 ううーんん。


 あっ!!


「どーぶつをどーぶつじゃなくしてしまおう!」

「え?」


 わたしたちは徹底抗戦に出た。


『これはねこという名の人間です』


 いわゆるネコ動画を引用ツイートしまくった。


 かわいい猫も、別にそうでない猫も十把一絡げにして人間だと言い張った。


「人間なので映えないやつは駆除しよう!」


 と、奴らが普段使ってる煽りのセンテンスを応用した。


 そして対決の日がやってきた。


「『戦う映えない女団』!廃業しろ!」

「これは商売じゃない!生き方なんだ!」

「やかましい!駆除してやる!」

「やれるもんならやってみろ!」


 どうしてか参戦することとなった猫どもも入り乱れてわたしたちが100人対100人対100匹での壮絶な戦闘の火蓋を切って落としたとき、声が掛かった。


「お前ら!」

「あっ!」

「アンタたちは・・・」


 瞬時にアタシらがまず防御態勢を取って、それからコンマ3秒で新たな敵の全貌を掴んだ瞬間反撃に出た。


『全生物和平同盟』


「お前ら、よく聴け。ウチらの存在こそが絶対で正しくて畏怖されるべきものだ。それ以外の世のあらゆる学説・政治的主義主張・哲学・思想・信教は全部たわ事で些事でクソで尊重されざるものだ。お前ら及び全人類及び全生物!ウチらにひれ伏せ!」


 属性はずっと前から知っていたけど姿を見るのは初めてだった。


『全生物和平同盟』の若き女リーダー、カズナレフ。


 その知っていた属性というのは『10代・女子大生・美人・博学・天才』


「あとひとつ忘れてた」


 凶悪。


「ウチらがお前ら全員今すぐ統べる!生死を問わず!」


 どうやって入手したのか分からない銃と手榴弾とがわたしたちと『かわいい動物のみ保護連名』と必ずしもかわいくない猫たちに浴びせられわたしたちが一瞬にして生物ですら無くなっていく。


 生きてない死骸となっていく。


 それは戦闘ですらなく一方的な殺戮だった。


 考えてみればわたしたち『戦う映えない女団』程度のゆるい組織が世での地位を確立しようなどと浅はかないっときの激情と打算でもって討って出るなど身の程を知らなかったのかもしれない。


 単に100匹の哀れな猫たちを巻き添えにしてしまっただけだった。


 わたしの人生はこの不毛な戦いの中で終わろうとしてるけれども。


 たれかいしをつぎたまえ。

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