十二、バーベキュー -あなたを救えるかもしれない

 四人はスーパーから大きな袋を提げて出てきた。

その袋には食材だけでなく思い出も詰め込んでいるはずだ。



 俺は何となく消えたいと思うことがあった。

特に生きる価値が見いだせない、ただそれだけではなかった。

友達をからかいすぎて、口を聞いてもらえなくなったことがある。

友達は一週間という期間を設けていたけれど、一週間話さないというのはツラかった。もしかしたらもう今まで通りに相手にしてくれないかもしれない。様々な不安がよぎった。それでも不安があっても生きていかなければならない。誰かに必要とされているから。誰かに謳われている間、俺は存在していていいんだと思えた。


――だから今は消えたいとは思わない。どうせそのうち勝手にくたばるんだもん、それまでは謳われるような人になる。



 ウチは志望校に合格した。その進学先で空の向こう側へと逝った彼にそっくりな人を見つけた。ウチが大学で空を見ていたら話しかけられた。

「どうしていつも空ばかり見てるの?」

「空が好きすぎて空の向こう側へ旅立った友達がね、言ってたの。空の向こうには何があると思う?って、その答えが見つかるかなって思ってね」

「そうなんだね。僕も空が好きだな。肯定も否定もこの大空はしないからね」

「君も空の向こう側へ行きたいって思うの?」

「一度は行ってみたいかな」


「空の向こう側へなんていったらあなたはもう戻ってこないでしょ?」

そう口にしたウチはきっと中学生の制服を身に着けていた気がした。


――あの日彼に言えなかった言葉の答えを探したのかもしれなかった。



 私は記憶を失くして、私の中から友達を亡くしてきた。

その度思い出す努力はしたけれど、「誰ですか」そう尋ねたときの友達の顔が私の脳裏に焼き付いている。そのせいで私は大切な人を作りたくなかった。また忘れてしまうかもしれないから、それがとっても恐いことだから。

でも、私の前にはヒーローが現れた。それは私が記憶を失くしても友達、仲間と呼んでくれるヒーローが。最初は口だけだと思った。でも実際私が記憶を失くしたとき、彼らは「はじめまして」からやり直しくれた。

今でも忘れることは恐い。でも少しは向き合ってもいいかもしれないと思った。


――私はまだ蛍になれるかもしれない。



 僕が配信を点けたあの日、こんな風に仲良くなれるとは思っていなかった。出会いはすべて配信から始まっている。そう思うとなんとも奇跡的な出会いだったのかもしれない。通知が奇跡的に届いて、リスナー同士が仲良くて、毎日のように馬鹿みたいな謎めいた通話。そして一緒に居たいという願い。

全て繋がっていた、それが僕たちが選んできた線であって、路であったのかもしれない。各々が選んだバラバラの選択が一つに収束してまた新しい路が始まろうとしているんだ。

彼が消えたいと望んだあの日、僕は何もできなかった。何も力になれなかった。無力感で空虚な空間を彷徨さまよっている感覚。


――僕は誰かの力になれたのかな。



 「見てー!アジ釣れた!!」

レートくんは釣り竿にアジをつけたままみんなに見せてくる。

「すごい!刺身!?それともそのまま焼くー?」

功がよだれを垂らしながら尋ねる。

それを見てバレ姉とハナさんは笑っている。

さきほどスーパーで買った袋から食材を取り出しながら四人はバーベキューをしている。

いつの日か一緒にしたいという約束。袋の中にはしっかりと線香花火も入っていた。例のごとくレートくんと功は「バレーソン花火フラッシュ!」とか言って変な必殺技みたいな名前を付けて束ねた線香花火に火をつけていた。

ハナさんはそれを見ながら暗い海に足を伸ばしていた。

バレ姉はランプの光にたかる虫を振り払いながら分厚い本を読んでいた。

そしてみんなが夜の海を楽しんだ後、功がギターを取り出して歌を歌い始めた。




 私は眠い

 私はつかれた

 もう明日はやってこない

 みなさん、ありがとう


 そう言ったあなたを救いたい

 私がいるよ、あなたの思いを少しは私にください


 何もできない私だけれど

 涙を流す私だけれど

 あなたの隣にいていいですか


 この詩で唄で訴で

 あなたが救えないかもしれない


 でもこの詩で唄で訴で

 あなたを救えるかもしれない




帰り道、田んぼ道に差し掛かった頃、四人は蛍を目にした。

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あなたを救う詩を訴いたいが私にはそれが出来ない 田土マア @TadutiMaa

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