契約 Ⅱ




──つい最近、バーゲス王国が腐敗した。


天龍の眷属が難しい顔で言った。



「今や国全体がスラム化しておる」


「その国にはシスイがいたはずよ。 あいつがやられるはずがないわ」


アリアが動揺しているところを初めて見た。



「シスイは数年前に吸血の女王と契りを交した。 その結果、魔王の呪いと吸血の呪いにむしばわれることになったのだ。 そして女王はあいつらに殺され、シスイは捕らわれた」

天龍の眷属は泣いていた。


吸血の呪いとは日光と聖贖剣せいしょくけん

聖贖剣とは聖人の骨や血肉を剣に置き換えることで不浄を払う剣だ。

吸血鬼に有効な武器の一つだ。


──そして魔王の不死の呪い……か。


「不死の呪いで傷は癒えても聖贖剣で与えた痛みは精神を蝕んでいくのか」


「いかにも」


「シスイは生きているか?」


「分からない。 だがワシとシスイは仮契約をしておる。 契約が続行しておるから生きてとると信じている」


アリアが振り返り、ひざまついた。


「我が主、クレイ・リエーラ・ルベラ様。我が友を救っては頂けないでしょうか? 」



人として蘇ってからもずっと孤独だった。 アリアと再会して日はまだ浅いが二人で平和にこっそり暮らせると思っていたのに──


そのためにも邪魔は排除しなくては。


助けるにも「力」がいる。あと情報も。



「助ける前にすることがある」

「何でしょうか?」

「まずは敵がどんな集団で何の目的でバーゲス王国を狙ったか探って欲しい──あとスラムの人々を集めて欲しい」


「──スラムの人々を集めるのですか?」


「仲間が必要だろ。 あとこれを渡しておく」

白いレースの日傘をアリアに渡した。


「かしこまりました 」


日傘を受け取ったアリアはすぐにバーゲス王国に向かった。





「天龍の眷属、名は?」


「雨と雷の天龍の眷属、『篠突く龍』と呼ばれておる。 愛称はシノだ」


「シノ、そう言えばシスイとの関係は? 仮契約と言っていたが」

「──宿敵だ」





私は冥界で共にしていた月の精霊を召喚できないか模索していた。


──力を貸してもらうために。


文献によると、この世界では数多くの精霊がいると言う。 その中でも精霊を統べる五柱の精霊王がいると記されていた。

月の精霊── ただのフクロウだと思っていたがそうではない気がする。

あのフクロウが月の精霊王だと感覚的に感じていた。


どうしても召喚したい理由がある。

それは精霊王との契約に成功すると稀に『精霊王の玉座』が出現する。 玉座に座れたものは絶大な力を手に入れることができるらしい……。


「シノ、 月の精霊と会ったことはないか?」

「ないな。 月の精霊は基本的に冥界にいるのでな。吸い取ったワシの血を使えば呼べなくもないかもしれないが」


やはり冥界からこちら側に召喚するしかない──



吸い取ったシノの血を極限まで凝縮して作った結晶を、魔方陣の真ん中に置いた。


「冥道二ノ説 月下美人の花言葉」


いくつもの花が装飾させている木の鎌が現れた。

ローブと瞳に青い光がとも

「クレイとやら、その力はいったい──」


その鎌で血の結晶を割ると召喚魔法が発動した。


青黒い光が辺り一帯を飲み込みやがて収束した。


フクロウではなく黒いドレスを着た女性がいた。


「久しいな、冥界の王」

「私も同じ気持ちだ。 月の精霊王」


漆黒の玉座に座っている月の精霊王はクレイに手を差し伸べた。





クレイ様より任務を頂いた私はバーゲス王国の城下町にいた。 本当にスラム街になっていたことに驚きを隠せない。


道端にはゴミが散乱しており、王国の民は疲れきっているようだ。

活気のない王国の中でも「希望」と言える噂があった。 それは「女王が生きているかもしれない」ということだった。


荒廃した時計塔に娘といるらしい。 だが、まだ誰も確認していない。


そしてクレイ様かお申し付け頂いた組織のことについては酒屋ですぐに聞けた。

『魔女狩りー鮮血ー』という組織だ。

魔女狩り組織の吸血鬼部隊だ。 他にも組織があるようで鮮血のメンバーは組織の中でも残酷と誰もが言っている。

シスイは本当に生きているのだろうか。


そして他の吸血鬼たにも大丈夫だろうか。






とりあえず女王のいる時計塔に向かった。


入り口付近に王国の騎士が立っていた。


「あなたここの警備の方かしら?」


「貴様は誰だ」


「質問をしてるのは私なんだけど──まぁいいわ。 それにしてもさっきまで天気悪そうだったのに日差しが強いわ」


指先を上に差し、天を見上げた。

騎士もつられるように上を向く──

そうでなくてはおかしい。

勇者あるいは英雄である者の見てるものは見なくてはならないと本能で感じているからだ。


──勇者の特有スキル『視線誘導』。


その一瞬で敵を気絶させた。





扉の中の空間は広く、豪華な階段が目の前にあった。




螺旋階段と歯車──


機械的な音が続き、時計塔の天井を見上げる──


階段を登れば吸血の女王に会えるのだろうか。




──あの頑固者に。







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黒の皇帝 かかっ @otyatya

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