契約 Ⅰ



『漆黒のローブ』を羽織り、皇帝の間にいた。


「先日で十六歳となった貴様が帝国にいる理由はない。 本日をもって追放とする」


実の父、皇帝ガロック・サイ・ルベラからの命だ。 厄介払いがしたかったのだろう。 自分の息子が落ちこぼれであることが我慢できない性格なのだ。 だが悲しみより解放感の方が強かった。


何も言わず静かに一礼をして皇帝の間を出た。そしてそのままこの国を出た。


国から少し離れた場所でアリアと合流した。

「どちら行かれますか?」

「バーゲス王国へ向かう。 あそこなら邪魔が入ることはないだろう」


「魔道具が発展している国ですね」

「そうだ。 文明が発展したために貧富の差が激しいときいている」


「スラム街に隠る…… と言うことですね。 しかし徒歩だと十日ほどかかりますね──」



「移動手段ならあるぞ。 来いっ青藍せいらん


天空から馬が舞い降りて来た。 その馬は青黒い毛で、とても艶やかな毛並みをしている。


「主に再会出来たことを幸せに思う」


そう言いながら青藍は尾を揺らしていた。


そしてアリアは驚いた表情で──


「この子は天馬なのですか?」


「──。 三日ほどで着く」




青藍に乗ったアリアと私はバーゲス王国へと向かった。




バロア帝国とバーゲス王国の境にある森と山は広大な敷地に豊富な果実があると言われているが、深く入る者は誰もいない。


その理由は吸血鬼、龍、精霊、天馬、そして神が現れるとされているからだ。


通称『混沌の未開拓地』。


中でも龍に出会ってしまうと生きて帰れないと言う。




森の中央辺りに差し掛かったところで赤い何かが見えた。

「青藍、ここで降ろしてくれ」

「了解した」


そこにあったのは赤い池だった。


池をじっと見つめながらアリアが言った。

「これは……龍の血……」

アリアの腰に下げている剣が輝いていた。


アリアは剣を抜き、池に剣先を浸けた。 何かを感じ取っているようだ。


「四天龍の剣が反応している──まだ生きている──」



「私に任せろ。『冥道三ノ説 ロッド・サイス』」


柄が長く刃が短い鎌が地面から現れた。 刃は結晶で出来ている。


持ち主の力が高ければ高いほど上位の魔法が使える鎌だ。


小黒点しょうこくてん


三つの小さな黒い玉がみるみる池の水を吸っている。


池の底には傷だらけの龍がいた。



『癒しの愛撫』


結晶の鎌が白く光った。 そして少しずつ傷が治っていく。

「うぅぅぅ。 あ、あなたたちは?」


「私はメイドのアリア。 あなたを助けているのは主のクレイ様です。 」


「ワシは第三天龍の眷属。 雷と雨の龍、だ。 助かった、感謝する」



「お礼いい。 ここで何があった?」




漆黒のローブが揺れる。 少し風が強くなり今にも雨が降りそうな空の中、龍は口を開いた──




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