私達の暮らしているこの世界では日常的にゾンビが徘徊している・②
高校に着くと、校門の前でも生体反応感知器によるチェックを行われる。まあ、面倒だとは思うけどそれがルールなら仕方ないよね。
それからはいつも通りの日常を過ごした。朝のホームルームを終え、授業を受け、お弁当を食べる。途中の休み時間、先輩のクラスでゾンビに感染した人が出たって噂も聞いたけど、所詮噂は噂。その手の話は定期的にでるし、その真偽も定かではない。
無事授業が終わると私は帰り支度をする。友達から遊びの誘いもあったが、私は泣く泣く断った。夕方には市の職員がウチに来るからだ。……お父さんめ。
私の席は窓際のやや後ろの方にあり、放課後のこの時間帯なら、色んな部活動の練習風景を見る事ができる。今日は野球部の顧問がいないのか、上級生達が練習もせずに遊んでいるのが見える。学校の裏門から連れ込んだと思われるゾンビが足を折られ、ピッチングの的にされていた。確か昨日は弓道部が動く的と言って練習に使っていたはずだ。私は部活に所属していないので彼等の気持ちはわからない。ただ、客観的に見てそれが良くないことだとは思う。だってあんな臭いモノを片付ける用務員さんが可哀想ではないか。硬球や矢が当たれば肉が弾け、人の形を止めることは出来ないだろう。そんなモノを平気で人に押し付けるなんて、彼等はきっと家の手伝いをしないタイプなんだろうな。そうは思っても口に出すことはなく、私はそそくさと帰路に着いた。
帰り道。また電車で生体反応を確認すると滑り込む様に電車に乗る。今まであの感知器に引っ掛かっている人……いや、ゾンビを見たことがないのだが、本当に意味はあるのだろうか?そもそもゾンビが素直に感知器の検査を受けてくれるのだろうか?ぐるぐると余計なことを考えながら電車に揺られていると、徐々にまぶたが重くなってきた。そうして私の意識は夢の世界に向けて歩みを進めていくのだった。
「…………はっ!」
咄嗟に目を覚ますと、そこはいつも私が降りる駅の一つ手前の駅のようだ。
(良かった~。寝過ごしたかと思った。)
まだ重い眼を擦りながら電車を降りると、私は自宅を目指しとぼとぼと歩き出す。途中、今朝のゾンビがいた場所を見たが、そこは綺麗に片付けられていた。
(ああ、良かった。まだ臭かったら嫌だもん)
ホッとした私は、少しだけ軽くなった足取りでまた歩き出した。
自宅に着き、玄関を開ける。だいぶ時間が経っているからだろう。今朝よりも濃い異臭がむわっと鼻腔を刺激する。それに驚いた私は慌ててガスマスクを装着した。
「けほ、けほ……お母さーん。ただいまー。……あっ」
そう言いながら玄関を開けた私の目に、二体のゾンビが飛び込んできた。足元には今朝父だったものを縛っていた縄が落ちていた。きっとお母さんの縛りかたが甘かったのだろう。
「うぁぁ~…」
「ぐぉぉ……」
幸い二体のゾンビはこちらに気付いていないようだ。私は踵を返して玄関に戻ると、下駄箱に備え付けてあったバールの様な物を手に取った。そのまま再びリビングに入ると、それを大きく振りかぶり背後から二体のゾンビの頭部を立て続けに殴り砕く。そしてポケットから携帯電話を取り出し、番号を登録してある市役所に電話をかけた。
「もしもし。今朝、ゾンビの処理をお願いした者ですが……はい、はい。そうです!それがですね。ゾンビの方がもう一体増えてしまって。母が感染したみたいで……あっ!そうですか!では、お願いします。お待ちしております」
私は電話を切ると、床に転がる両親だったものを交互に見た。
「良かった~。こんなに急でも対応してくれるんだぁ。それに役所の人が片付けもしてくれるよね?」
フローリングの溝をつたう血の線を目で追いながら、私は独りで呟く。その時、きゅーっというお腹の音が静かな部屋に木霊した。
「お腹空いたなぁ。……カップ麺でいっか?」
私はゾンビを跨ぐとその奥にある戸棚からごそごそとお気に入りのカップ麺を取り出す。そしてヤカンに水を入れ、それをコンロにかけた。
「市役所の人が来るまでには食べちゃうよね?」
誰に問いかけるでもなく私はそう言うと、腐敗臭の漂うリビングでお湯が沸くのを待ったのだった。
私達の暮らしているこの世界では日常的にゾンビが徘徊している 矢魂 @YAKON
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