桜の木の根本には、声のない亡骸が埋められていると、良く伝えられる。
この、物語では、そこになにがあるのだろう……。
高校教師である主人公は、春の早朝、通学路のそばの公園で不思議な女子生徒に出会う。公園のその桜は蕾がようやく開き始めたころだった。
その出逢いがもとで、女子生徒の姿を、次第に追い求めるようになっていく。
夢にまで現れ、主人公を過去の記憶へと誘っていくのだ。主人公も、その手を取るように、記憶を上書きしていく。そして、求められたものは……。
この物語、最後に語りかけられるまで、恐くはない。全編で、淡く儚い乳白色に彩られた物語である。これだけでも、物語として魅力的である。
でも、今年の桜は、開花が早かった……とは。
しかし、最後の数行で、ホラー作品へと、見事に置き換えられてしまった。背筋が凍るとは、こういうことだろう。
残虐ではないので、誰でも読めると思う。残酷ではあるが……。