外れ勇者を百人も召喚してしまった召喚士

仲仁へび(旧:離久)

01



 ベッドの上で横たわる人、私のお母さまの命は、もうすぐ尽きてしまいそうだった。


 人類の敵……魔族によって望まぬ人生を歩むことになったお母様は、病によって倒れてしまった。


『お母さんと一緒の職につきたいなら、形見をあげるわ。だから大事にしてね。きっと危ない時に助けてくれるから』


 母の最期の言葉に背中を押された私は、厳しい修行を経た後、国のとある要職につくことにした。







 年季の入ったボロボロの杖を握りしめて、儀式を行う。

 様々な道具で飾り付けられた儀式の間で行われていた勇者召喚。

 魔方陣が光り輝くが、一瞬後に現れたのは小さな子供だった。


「あれ、ここどこ? おねーさん誰?」


 私は膝をおとした。

 100度目の勇者召喚失敗。


 私がいる国は魔人の脅威にさらされている、魔族を率いて進行してくる魔人の軍に対抗するために、戦力が必要だった。

 だからすぐにでもきちんとした勇者を召喚しなければならないのに、まったくうまくいかない。

 もう、これで100回目。


 それなのに、毎回召喚される勇者は勇者(?)と、疑問符をつけたくなるような人間ばかりだった。


「ばあさんや。おや、ばあさんはどこにいったのかね?」


 歩くのもやっとなおじいさん。


「わんっ、わんわんっ」


 首輪とつけたわんちゃん。


「うふふ、ちょうちょさんがいっぱーい」


 なんかトリップしてる人。


「よくも私とあの人の中を引き裂いてくれるわね、許せない!」


 病んだ目つきの女性。


「ファンタジーで勇者召喚きたー!」


 何言ってるのか分からない、はちまき男。


 こんな人達が戦って魔族を倒せるわけない。


 この国はもう終わりなのだ。


「おねーちゃん大丈夫。お腹痛いの?」

「おやおや、若いのに大変だねぇ」

「わんっ、ぺろぺろ」

「あらあらあら。ちょうちょさんまっててねー。これは人かしらー?」

「今すぐ元の世界に返しなさいこの○○、○○女!」

「どしたんどしたん? くっ、こんな時おにゃのこにどうやって声をかければ!」








 100回連続で勇者召喚を行った私は、百人の勇者(?)に見守られながら疲労で倒れてしまった。


 かすむ意識の中、ライバル召喚士が侮蔑の言葉を放ってきた。


「ふっ、これだから魔族の血が入った交じりものは。お前の母親は同族である人間に殺されたんだってね、魔族と交わったんだから当然よ! お前なんかに居場所なんてないわ! 魔人と一緒に討伐されてしまえ!」


 ライバル召喚士は、私が持っていた形見の杖をひったくった。


 意識をつなぎとめるのに必死な私は、立ち上がる事もできない。


「や、やめて。それはお母様からもった……大事な形見なの。お母様は、魔族と通じてなんかない。無理やりに……」


 私を産んでくれたお母様。

 けれど、その相手は魔族だった。

 望まむ男とと関係を結ばなければならなかった母は、私を産んでからひどい差別にあった。

 だから名誉を挽回するために無理をして、そのせいで病気にかかってしまったのだ。


 ライバル召喚士のさげすみの視線は心につきささる。


「あんたのお母さんもかわいそうね。あんたが生まれなければ、魔族と通じた事を隠せたかもしれないのに。どうして産んだのかしら。体の良いサンドバックにしたかったの? きっと、こんなボロの杖を形見によこすんだもの。きっと裏では疎ましく思っていたんだわ」

「そんな、はず……」


 いつでも優しかったお母様の声を思い出す。

 そんなはずない。

 否定したかったけれど、しきれない自分がいる。


 私は奪われた杖を求めて手を伸ばし続ける。けれど、ライバル魔導士は「こんな穢れた道具だから、本物の勇者様をよびだせないのよ。私が燃やしてあげるわ」その杖を魔法で燃やし尽くしてしまった。


「あ、ああ……。そん、な。ごめんなさい。お母様、一人前の召喚士になって、お母様の名誉を……約束……のに」


 近づいてきたライバル召喚士によって、伸ばした手を踏みつけられた私は、疲労と痛みで気を失ってしまった。


 その時、私は知らなかった。


 倒れる私を見つめる、百人の外れ勇者の体が光った事に。








 勇者の連続召喚の代償はおおきかったらしい。

 意識を手放してしまった私は、一週間後に目を覚ました。


 そんな私が目を覚ますと、国王様がやってきた。


 ああ、きっとこんな駄目な私を首にするつもりなのだろう。

 それだけならばまだいい。

 期待を裏切った私に罰を言いつけるのかもしれない。


 しかし、不安でいっぱいだった私に、国王様は「よくやってくれた!」と満面の笑顔を浮かべた。


 肩を叩かれて労われる私はどういう事か分からず戸惑う事しかできない。


「おぬしは勇者召喚を見事やり遂げて、百人もの勇者を召喚してくれた。これで魔族の味方とされていたおぬしの母親の濡れ衣も晴れるだろう」

「一体どういう事ですか」


 説明のために兵士につれていかれた戦場。

 そこでは驚くべき活躍をする勇者(?)達がいた。


「あはは、燃え尽きちゃえー」


 無邪気に魔法を行使して、魔人が操る魔の軍勢を蹴散らす子供。


「あたたたたたたっ、ほあちょー!」


 華麗な体さばきで魔人を蹴散らす老人。


「ばうっ、ばうっ。ぐるるるるっ」


 地獄の番人ケルベロスかと見まがう姿に変貌したわんちゃん。


「うふふっ、ちょうちょさーん。皆をまどわせてー」


 ちょうちょを操って、幻覚の魔法を行使するちょっとトリップしてた人。


「うふふ、気に入らない存在を黙らせるのはやっぱり物理だわ。帰ったらあの人にいっぱいほめてもらいましょ!」


 調理用の包丁や裁縫道具で、魔の軍団を解体していく病んだ目つきの女性。


「回り込んでおおい囲む、おK? そうそうそのままそのまま、地の利をいかしてくんだお! おにゃのこのために! かわいいは正義!」


 独特な言葉で兵士の動きをコントロールしていくはちまき男。






 その時、私は死に際につぶやいた母の言葉を思い出した。


『立派な召喚士になるのよ。でももし、人生で一番大きな舞台に立つ時は、お母さんがプレゼントにした杖を触媒にして使いなさい。そうすれば絶対に成功するから』


 お母様の思いが私を助けてくれたのだ。

 ずっと、私は生まれてきたことを後悔していた。

 私が生まれたせいで、お母様は不幸になってしまったのではないかと思っていた。

 けれど、お母様は私を愛してくれていたのだ。


 私は、お母様の愛に涙を流した。


 その後私は、百人もの勇者を召喚した大召喚士として、歴史書に名を残す事になった。


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