9話 スグと風瑠

結局、学校まで走り続けた。夕と風瑠は模香に追いつくのがやっとで、荒々しく呼吸をしていた。それに対して風瑠は、まだまだ余裕の表情である。今にも再び走り出しそうだ。


今日のホームルームの授業では、秋の学校の風物詩、文化祭についての話し合いが行われた。模香は、クラスの実行委員に選ばれている。


「では、クラスの出し物について考えていきます。なにか意見がある人はいますか?」

「カフェやりたいです」

「私はお化け屋敷!」

「焼きそば売るのも楽しそうだよね」


と、たくさんの意見が出されたが、最終的に、夕たちのクラスでは縁日をすることになった。


「では次に、準備の係を決めます。入りたい係に挙手してください。」


模香は、順調に進行を行なっていく。挙手を取り終えたのだが、2人が上限の黒板アートの係に、夕、スグ、風瑠の3人が立候補。1人はどこか他の係で仕事をすることになる。


「では、じゃんけんで決めてください」

「───ジャンケン、ポン!」


結果、夕がパー、スグと風瑠がチョキを出し、夕は唯一の1人の係、衣装デザインの係に決まった。夕はなんとも思っていなかったのだが、視界の隅でスグは嬉しそうに、風瑠は悲しそうにしているのが目に映った。───鈍感な夕には、その理由は分からなかったが。


授業中におおまかなデザインを決めようと思っていたが、まとめきれなかったので家で終わらせ、夕はそのまま就寝した。


次の日の朝。夕はいつも通りに準備を整え、模香が来るのを待つ。


「夕?学校いこ!」


ドアの奥から、いつもの声が聞こえる。夕は玄関に向かい、ドアを開ける。


「おはよう、夕君。行こっか」


そう夕に話したのは風瑠だ。今日もこの3人で学校へ───


「ほら、行くぞ、夕」


否、スグが加わり、4人での登校である。


「どうしてスグが?遠回りになるんじゃないのか?」

「そうだけど、文化祭の話を進めたくて。」

「ああ、なるほど」


「あ、そうだ夕、衣装のことなんだけど」

「あ、そうだスグ君、デザインについてだけど」


4人は足を揃えて学校へ向かった。


学園祭の準備は、放課後に毎日行われる。当日まであと2週間、準備ができるのは10日ほどだ。クラス内の活動も盛んになってきた。しかし、準備を進めている途中だった。


「ね、夕、、、」


模香が重い口調で話しかけてきた。いつもは明るくしているのに、珍しい。


「ん、どうした?」

「あれ、、、」


そう言って指差した先は、黒板の方、スグと風瑠が作業している───はずの黒板の方。


「───スグ君と風瑠ちゃんが、いないの」

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アカのイト、ヒモのイト 微狭い神 @NickD

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