「気持ちよさそうに寝てるね?」


「え」


 目が覚めた。


「え。ちょっ」


 彼がいる。


 わたしの手を。握って。


「なんで?」


「え、なんでって。飛行機キャンセルして、ここに来ただけです」


「どうして。あなたは国外に」


「うん。なんか情勢が変わってさ。国外に出れないんだって」


「あ」


 そういえば。なんかよく分かんないのが流行ってるんだっけ。


「もう少し、先送りになっちゃった。ので、ここに来てあなたの献血を眺めてました」


「はずかしい」


「すごいね。あなたの血だけで、何十人分もの血が賄えるなんて」


「血の量だけが取り柄なので」


「尊敬するよ。君は、僕なんかよりも偉大な人間だ」


「なんの才能もないの。わたしは。だから、あなたの側にいたくても。できない、から」


「なんで?」


「え」


「誰かを好きになったり、側にいたいと思うことに。何か特別な才能や理由が要るの?」


「だってあなたは。わたしよりもずっと頭がよくて」


「それを言うなら、君は僕よりもずっとすごいよ。君の血で救われたひとがたくさんいるんだから。その論理でいうなら僕の側が君の隣にいられない」


「わからない。わからないわ。わからないです」


「じゃあ、シンプルに行こう」


 握られた手が。


「僕は君が好きです。あなたは、僕のことが好きですか?」


 暖かい。


「はい。好きです。大好き」

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飛び立つまでに(15分間でカクヨムバトル) 春嵐 @aiot3110

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