少年窃盗団の放課後⑫




西園寺邸に侵入した二日後、未だに色々と思うところはあるが日常は平凡に流れていく。 だが駿平の気分は落ち込みっぱなしだ。 それは学校の昼休みになっても変わらなかった。


―――・・・はぁ。

―――白花さんのことはまだ好きだけど、気まずいんだよなぁ・・・。


駿平は昨日の反省会のことを思い出していた。 仕事の終わった翌日の夜、場所は学人の家で、夕食をみんなで食べながら打ち上げがてらに反省会をするのがお決まりなのだ。 

ちなみにメインディッシュは熱々のグラタンだった。 駿平、学人、翔が猫舌なのを知っているのに、とびきり熱々だったのは失敗した罰だったのかもしれない。 

だが味は特別に美味しかったように思う。 沈む気分もその時ばかりは上がったものだ。


「そう言えば、どうしてあんなに帰ってくるのが遅かったの? スーツを着た男の人たちと遭遇したって聞いたけど」


やはり罰というのは考え過ぎかとも思った。 翔の母は単純に心配してそう聞いてきた感じだ。 スーツを着た男たちに関しては、駿平だけが真実を知っていて二人にも多少誤魔化している。 

親への報告では男たちも同様に同じネックレスを狙っていたことにした。 何度か争いはあったが、最終的に駿平たちがネックレスを手に取った。 

だがその時に運悪く主人に見つかってしまい、大人しく返す羽目になったわけだ。 男たちから奪い返したと上手く主人たちが勘違いしてくれたため何とか逃れたと、三人の親には報告している。


―――流石に、あの男たちはネックレスではなく白花さんを狙っていただなんて、言えない・・・。

―――ガクとショウにもそう話しちゃったし。

―――ここはそう合わせるしかないよな。


「ぼ、僕が男たちに最初に見つかったんです。 頭を殴られ気を失ってしまったから、作戦は失敗に・・・」

「えぇ!? それ、大丈夫なの?」

「はい。 気付いたら知らない部屋の中で拘束されていました。 無事、脱出はできたんですけど・・・」


そう説明をしていると学人が突っ込んでくる。


「じゃあ、スンといたあの女子は? あの屋敷の娘なんだろ? どうして一緒にいたんだ?」


正体がバレる可能性が高いのに一緒にいたことを責めているのだろう。 だがあそこで見捨てることはできなかったし、頼みを断ることもできなかった。 

もちろん、好意を持っていることなんて絶対に言えない。


「僕が拘束されているところを、偶然助けてくれたんだよ」


それは嘘であるが、それ以外に適当な答えを思いつかなかった。 そして西園寺家ということと屋敷の娘ということから、駿平の母は何か悟ったらしい。


「・・・もしかして、西園寺さんの娘さんって白花さん?」

「そう。 僕と同じ学校で、同じクラスの」

「はぁ!? 俺たちの正体、バラされたらどうするんだよ!」

「あ、それは大丈夫。 言わないって約束をしたから」

「よく赤の他人を信用できるよな・・・」


―――でも本当に信じても大丈夫な気がするんだ。

―――白花さんのことはずっと見ていたから、どういう人なのか分かる。

―――約束は絶対に守る人だ。


今は駿平の話を信じてくれたことに安堵した。 反省会では今回の問題点や、次に生かすための方針を考え無事に終わることになった。



そして現在、教室で溜め息をついているとクラスメイトがやってきた。 先日、コインを借りた彼だ。


「駿平! マジックを見せてくれよ!」

「あ、うん」


日常は変わらず流れていく。 あまり引きずっても仕方がないため、いつもの流れでマジックを始めようとするとまたもや学人から通信がきた。 

やめてほしいと言ったというのに、相変わらず突然連絡はやってくる。


『二人共! 今いいか?』

「わわッ! ごめん! また先にトイレへ行くね!」


突然の声に驚きながら、静かな廊下へと出て耳を澄ませる。 何度このやり取りをやったことだろう。


『マイクの試作品が今週末にはできそうなんだ。 試したいから、俺の家に集合な!』


―――まだ一週間も経ってないのに!?

―――流石、ガクの親・・・。

―――というより、何だかんだ毎週僕たちは集まっているよなぁ・・・。

―――もう慣れたけど。


教室へ戻ろうとしたところで白花がやってきた。 突然目の前に現れると緊張してしまう。


「は、白花さん!?」

「大丈夫、緊張しないで。 駿平くんの事情は聞かないって言ったでしょ。 私のことも秘密にしてもらっているから」

「あ、うん・・・」

「そのことでお礼をしたくて」

「え、お礼なんてそんな!」

「今週の休日、どちらか空いていないかな? よかったら一緒に出かけたいなって」

「ッ・・・! ど、土曜日なら・・・」

「やった! 嬉しい、ありがとう」


嬉しそうに喜ぶと寄ってきて耳打ちをしてきた。 彼女の香りがふんわり漂い、心臓の鼓動が聞こえてしまいそうな程にドキドキした。


「・・・ねぇ、また私が攫われそうになったら助けにきてくれる?」


「もちろんだよ」


その言葉に即答した。 ネックレスを奪うことはできなかったが、彼女の心は少しでも奪うことができたようだ。 やはり盗みは楽しい。 心が弾む。 これだから窃盗は止められないと思った。

駿平たち三人はこうして少しずつ経験を積み、誰からも恐れられる窃盗団になっていく。 だが現在の役回りが改められ、駿平がリーダー役になる日が来ることになることをこの時の三人は知らない。

ただやはり止めてほしいと思うのだ。 こういったシリアスな場面でも、突然の連絡が来ることは。





                                                                       -END-



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少年窃盗団の放課後 ゆーり。 @koigokoro

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