少年窃盗団の放課後⑪




駿平は焦っていた。 足音からするに男たちの仲間ではない。 ただ騒ぎを聞きつけ集まってきているという感じだ。


―――マズい・・・!


白花に自分たちの正体がバレてしまうのかもしれない。 それは好きな相手に避けられるだけでなく、学校にも広まってしまう可能性があるということだ。 白花を見ると、何故か握る手の力を強めてきた。


「・・・白花さん?」


彼女は震えていた。 男たちの仲間が集まってきていると思ったのかもしれない。 しばらくすると、パーティの参加者のような数人の大人が顔を出した。 中には西園寺夫妻もいる。


「一体何事だ!」


倒れている男三人と少年三人。 そして白花を見てそう叫んだ。 ネックレスを探していたのか、屋敷を歩き回っている最中に運悪く見つかってしまったのかもしれない。 学人が小声で翔に言う。


「・・・ショウ、渡せ」

「え、でも」

「俺たちの負けだ」

「・・・」


翔は懐からネックレスを取り出した。 ネックレスを盗む仕事は失敗となって終わったのだ。 西園寺主人は驚いた。 ただ何か勘違いをしてくれたのか、怒ったわけではなかった。


「ッ! なくなったと思っていたネックレス! もしかして、この男たちから取り返してくれたのか!?」


「「「え?」」」


少年三人の声が揃った。 主人はネックレスを受け取り本物かどうかを調べ始めた。


「・・・あぁ、確かにこれは本物だ。 ありがとう。 君たちの活躍で、家宝は守られたよ」

「傷がないようでよかったです」


主人の言葉に学人は笑顔で言った。 あまりの切り替えの早さに翔と駿平は顔を見合わす。


―――流石だ、ガク・・・。


白花が駿平と手を繋いでいたことから、悪意がないと感じ取ったのかもしれない。 とにかく疑われるようなことはなかった。 そこで翔は言う。


「あと木刀、この男たちを倒す時に使わせていただきました。 勝手にごめんなさい」

「私が許可を出したの!」


その言葉に白花がフォローに入ってくれた。


「あぁ、そうか。 そんなもの別に構わないよ」


続けて駿平が言う。


「男はこの人たち以外に二人います。 同じスーツを着ているから分かると思います。 場所は――――」


場所を伝えると大人たちはその部屋へと向かっていった。 すれ違い様に夫人が学人に言う。


「ありがとうね、坊や。 貴方を信じてよかったわ。 白花も無事で安心した」


駿平と翔は、夫人と学人の間で何があったのかを知らない。 だが上手くやり過ごせたのは確かだった。 夫人はそう言うと大人たちの後を追っていく。 その背中を見届けていると白花が小声で言った。


「駿平くん。 私が攫われそうになったこと、誰にも言わないでほしいの」

「え、どうして?」

「お父さんとお母さんに、心配をかけたくないから」

「でも・・・」

「お願い。 もしそれを聞いてくれたら、私も駿平くんにどうしてここにいるのか聞かないから」

「・・・分かった」


彼女がまた狙われたら大変だ。 今回たまたま盗みに入ったため無事だったが、男は白花の誘拐をあと一歩のところまで進めていた。 だがそう言われては頷くことしかできない。


「これ以上関わってしまう前に、ここから出よう。 主人たちはまた戻ってくるはずだ」

「あぁ、分かった」

「ほら、スンも行くぞ」

「・・・うん。 白花さん、また」

「今日は助けてくれてありがとう。 また学校でね」


三人はこっそりと屋敷から出た。 帰り道、学人が言う。


「今回の件で今後の課題が見えたな。 俺たち三人は別々になったら駄目だ。 アイテムが有効に使えない。 みんなが通信できるように、二人にもマイクを付けてもらう必要がある。

 それにいつでも戦闘できるように、小型ナイフは常備しておいた方がいいかもな。 あとショウの笛の合図も増やさないと。 明日、誰かの家に集まって反省会をするぞ」


その言葉に二人は頷くと解散した。 帰り際、学人に背中を叩かれる。


「スン。 無事で何よりだ」


優しくそう言って彼は離れていった。 駿平も親が待っている車へ向かう。 だが仕事へ行く前と同様、気持ちが重かった。


―――・・・どうしよう、何て言おう。

―――失敗をしただなんて・・・。


悩みながらも車へ到着する。


「あの・・・」

「車に乗りなさい」


あまり姿を見られるのは好ましくないため、大人しく後ろに座る。


「無事に戻ってくれただけでよかったわ。 予定していた時間より大分オーバーしているんだもの。 帰りが遅くて心配した」

「また次に頑張ればいい。 お前たちはまだこれからなんだから」


何も話していないのに駿平の様子から失敗したと悟ってくれたようだ。


「・・・うん、ありがとう」



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