小鹿の表象
人々は初めに失う大切なものは、家族や親族なのかもしれない。
私には笑顔まぶしい伯父がいた。お気に入りの小鹿の置物を壊した時も、遊びに来ていた伯父が作業服の胸ポケットから、スッと瞬間接着剤を取り出して直してくれた。
その時の笑顔はうすもやがかかってはいるが、暖かかったのを覚えている。
だがそれ以外は謎に包まれている。
私が五歳の時だったか、彼は自殺した。詳しい状況や理由は一片も知らない。
ただ後に我が家では見せない伯父の顔を知った。
パチンコ、家宅侵入、そして唯一知る自殺。この三言だけでもう胸がいっぱいだ。
それでも彼は愛されていた。彼の家族も、母や他の親族も寺の畳を濡らした。私は泣くのはカッコ悪いと思って我慢して、母に「泣かないの、もうお別れなんだよ? 」と言われたのを覚えている。
もちろん私もつらかった。
でもそれを見て思った。彼自身はどこにでもいる普通の中年だったのだ。それが何かしらの理由があって、私の胸を満たす言葉たちを生み出した。
あの美しい幼少の思い出が、そうであってほしいと言っている。でも現実はもっと汚くて救いがないのかもしれない。
だからこそ、私はよく生きたいと思った。
万人に芯まで美しい喜びを。
夏雪掌編集――かせつトイレ―― 狐藤夏雪 @kassethu-Goto
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