歴史を繰り返す

 か弱い父でもあの背中は大きかった。仕事は作家で、いつも家で本と過ごしていた。でも僕がそばによって遊んでほしいと言えば、本を読んでくれたり、ちょっとした話を聞かせてくれた。


 それに家族だけじゃなく、他の人、動物や虫にも優しい。どれほどの傷ついた者が、彼の手から青空に戻ったことか。


「いつかは皆死ぬ、パパもママもみんなね。だから互いにもっとも善く生きられるようにするんだ。悲しいまま死んだらイヤだろ?」


 その口癖のような言葉も含め、体が弱い分、心がとてもまぶしかった。


 だが、父はある日旅に出た。細身に似合わない重装備で、まるで服に着られていた。


「遅くても来年の麦の収穫時期には帰ってくるよ、だから、何があっても誰にでもやさしく笑顔でいるんだぞ」


 そして父はかなり軽くなって、約束通り帰ってきた。


 でも僕はいまだに守り続けなくてはならない。


 僕は大人になった。


「何があってもやさしく笑顔」


 今日も口にして思い出す。


 父は帰ってくるまでとは言わなかった。もし言われていても、父のようになりたいと守り続けただろう。


 街にはあの時と同じ薫りが漂っている。


 歴史は繰り返される。これも父がよく言っていた。


 では、僕も歴史を繰り返そう。

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