1%の巫女服
芳川見浪
整備士の葛藤
「これは趣味に走りすぎてませんか?」
ある日、日本の某基地に新型の戦闘兵器が納品された。
怪獣と戦うために作られた兵器である。激化する戦争により軍はより安価で高性能な兵器を求めるようになり、これはそんな軍が試しにと納品した物であった。
「巫女さん?」
巫女である、巫女なのである。その兵器は巫女なのである。本物の巫女がやってきたわけではない、巫女を模した人型機動兵器が納品されたのである。
「どうだ? 可愛いだろ?」
「整備長」
仕様書を見ながらどう整備しようかと悩んでいた時、隣に整備長が来て呟いた。何故か彼は得意気であった。
「これは巫女の姫と書いてカンザキと読むんだがな、撫子呪術院が造ったんだ」
「撫子……あぁ、あのフェミ団体ですか。そう聞くと納得ですね。まあざっと仕様書見た感じ前線でバリバリ戦える機体でもないですし……後方支援が主になりそうすね」
確かにローコストではあるが、ローコストゆえに性能はあまり期待できない、使い捨ての支援機ぐらいに思っていた方が良さそうだ。
と、真面目に考えていたのだが、何故か整備長は不満そうな表情を浮かべている。
「感想はそれだけか? もっと何かあるだろ!?」
「何言ってんすか」
「可愛いとか! 可愛いとか! 可愛いとかあるだろ!」
「戦闘兵器に可愛いとかいらないでしょ!?」
「バカヤローー!!」
突如整備長の鉄拳が飛んできた、日々の整備で荒れた拳が目の前に迫り、右頬を打ち抜いて床に叩き伏せられた。床に沈む部下を見遣りながら整備長が言う。
「殴ったね!」
「殴った方が言わないで下さい!」
どうかしてる。
「お前は可愛いをわかっていない! かつて第二次世界大戦で活躍した舩坂弘はこう言った!」
「なんて?」
「戦いとは、1%の巫女服と99%の可愛いで成り立つとな!」
「それただの整備長の性癖でしょう!?」
「その通りだあ!」
段々会話に付き合うのが馬鹿らしくなってきた。
「ローコストの割に武器種が豊富なのは良いでしょう」
基本武装は光矢を放つボウガン、近接には使い勝手のいい長物、案外どのような武装とも互換性があるかもしれない。
「ですが! これはなんですか!?」
「これとは?」
「ここ、基本モーションのところですよ」
基本モーションには着地、ジャンプ、慣性移動、姿勢制御などの動きがデフォルトで入っており、それは機体を運用する上で大事な役割を果たしている。
もちろん巫姫にもそれはある。あるのだが。
「何で貴重なモーション枠を……ダンスで埋めちゃってるんですかあ!?」
「ちなみにそのダンスはお〇ャン子クラブの踊りを参考にした」
「今の子がお〇ャン子クラブわかるわけないだろ!!」
説明しよう! お〇ャン子クラブとは、1985年に誕生した女性アイドルグループである!!
初シングルの「セーラー〇を脱がさないで」はオリコン5位を獲得する程のブレイクを果たし、写真集やビデオソフトなどをリリースしては売れまくる人気を得た。更に映画にも出演するなど活動の幅は広く、バブル期のアイドル世界を席捲したといっても過言ではない!!
「なんか機体説明よりも気合い入ってんぞ!」
「ちなみに巫姫にはテーマソングもあるぞ」
「なんでテーマソング作ってんだよ」
ちなみにこの時既に敬語が外れているのだが、誰も気づいていない。
「テーマソングは『巫女服を脱がさないで』だ」
「モロパクリじゃねぇぇか!!」
「みーこーふくを♪ ドゥンドゥン♪ ぬーがーさーないで♪」
「気持ち悪!」
いい歳したおじさんがノリノリで踊りながら歌う様は中々キツイものがある。
それはそれとして、一体どんな酔狂がこの巫姫に乗るのか気になるもの。巫山戯た機能ばかり目立つが、ローコストなりの運用を考えれば中々良い線いくかもしれない。
やはりパイロットの腕次第だろう。
「で、誰が乗るんです?」
「ああ、今丁度こっちに来ている彼だ」
と言って整備長は後ろを指差した。振り返ると。
「紹介しよう、巫姫のパイロットことマッスル武田だ」
「マッスル武田……」
名前にはツッこまない。絶対ツッこまない。
マッスルの名が示すとおり、彼は筋肉モリモリのムキムキマッチョマンだった。ムキムキがムキムキしながらムキムキとやってきたのだ。非常にムキムキしておりいかんともしがたくムキムキだった。
「機体とアンバランスな可愛いくないのがきた!」
「彼の趣味はシル〇ニアファミリーだそうだ」
「アンバランスすぎて逆に可愛いな!!」
そうこうしてるうちに目の前に来ていた。間近でみると威圧感が凄い。
「マッスルマッスルー!!」
「なんかマッスル言ってますよ?」
「彼はマッスル王国からやってきたからマッスルとしか言わないのだよ」
「ふざけてます?」
「真面目にマッスル王国はあるぞ」
「へぇ、マジすか、南米とか東南アジアすかね」
「いや千葉県にある。彼はそこで生まれて育ってるうえに漢検一級もとってるぞ」
「じゃあ日本語で話せよ!!」
「筋肉ぅ筋肉ぅ!」
「マッスルを和訳しろという意味じゃねぇから!!」
実戦の時がやってきた。
巫姫は当初の考え通り、後方支援に徹せさせてみれば大きな戦果とまではいかないが、地道に味方のアシストをこなしていて非常に頼もしい。
「まあ、いい感じですね」
「そうだろう?」
整備長は得意気だ。
「でも、射撃の度にいちいちカメラアイのとこに指を持って行ってポーズを決める必要はあるんですかね!?」
「可愛いから必要に決まっておろう!」
「じゃあ装填する時にわざわざクルリと回るモーションは!?」
「可愛いから必要だ!!」
「待機時に長物を抱えて首を傾げるモーションは!?」
「可愛いからに」
「もういいよ!!」
最早何をいっても可愛いからとしか返ってこない気がする。
「可愛いは大事だぞ、聖徳太子だって可愛いはジャスティスて言いながら産まれたわけだしな」
そんな事あってたまるか。
戦況は至って有利に運んでいた。巫姫も初陣にしてはよくやっている。
それゆえか、みなどこか油断していたのだろう、迂闊にも前に出てしまった巫姫に向かって一体の怪獣が前線を押しのけて襲ってきたのだ。
「不味い! 巫姫では分が悪いですよ!」
「いや待て!」
整備長の考えがわからないが、何かあるようだ。まさか巫姫に隠された機能が解放されたとでも言うのだろうか? あるのかわからないけど。
言われた通り様子を見る。怪獣は巫姫の目と鼻の先に来て……唐突にひざまづいた。
「は?」
全くもって意味がわからない。
「まさかあれは!」
「整備長、何か知ってるんですか?」
「あれは間違いない」
モニターでは怪獣が徐に巫姫の腕を取っていた、そしてその指に輪っかの様なものを通したのだ。
「あれは結婚指輪だ!!」
「バんなそカな!!」
怪獣がロボットに求婚など聞いた事がない。
巫姫の様子はと見れば、顔を赤くして戸惑っていた。
「なんで赤面させてんすか」
「可愛いからだ」
「知ってた」
確かに赤面して狼狽える巫姫は可愛い、だが思い出してほしい、アレに乗っているのは筋肉ムキムキのマッスル王国からやってきたシル〇ニアファミリー大好きおじさんであることを。
「これ、どうすんだよ」
絶対収拾つかないだろう。そもそも求婚など受けるはずがない。
と思っていたらあろう事か巫姫が頷いたのである。つまり結婚するという事だ。
「なんでやねん!!」
「うっ、巫姫のやつ、幸せになれよ」
何故か整備長は涙を浮かべながら祝福ムードだ。
しかも画面向こうでも他の戦闘兵器達が手を叩いて祝福していたのだ。
「いやお前達さっきまでそいつ殺そうとしてただろ!!」
「これから忙しくなるな」
「そっすね、色々とね」
「結婚式の準備で」
「……ふう、なるほど」
その時ようやく理解した。自分の頭ではここのノリについていけないと。最早ツッこみを入れることすら億劫になってきた。
「あとで転属希望だそう」
受理されませんでした。
1%の巫女服 芳川見浪 @minamikazetokitakaze
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