───卒業。それぞれの物語…


 俺とルカが付き合い始めて1年が経過した。俺たち三年生は今日をもって高校生を卒業することになる。


「長いようで短いようだったわね」

「そうか?俺は案外楽しかったぞ?」

「そりゃ毎日のようにルカと戯れてたらそうよ。私の前でまだイチャつくのはやめて欲しかったわ…」

「若気の至りだろ!初めてで浮かれてたんだよ!」

「ルカがスピーカーで通話するから冬馬の「ルカ…好きだよ」ってのが聴こえてきたんだけど」

「やめろぉぉ!何もいうな…何も言わないでくれ!」

 俺のライフポイントを卒業式まで削ってくるのやめろよ!初めてなんだから多目に見てくれないかな!?


「冬馬くん本当に卒業しちゃうの〜?私寂しいよ!留年!留年!」

「縁起悪いこと言うな!…てかルカ!在校生なんだから体育館行けよ!」

「愛の力の前に時間なんて関係ないんだよ!あ…!今のルカちゃん的にポイント高いよね!」

「やかましいわ!」

 ここ一年でルカの俺への呼び方は冬馬くんに変わり、敬語もすっかり抜け今では小悪魔どころか大魔王並みの愛をありがたいことにもらっている。

 ボブほどの髪もすっかりと伸びて青みがかったポニーテールをユラユラと揺らしながら飛び跳ねる。


「ミオちゃん!冬馬くんがイケズだよ!」

「お兄ちゃん、ルカちゃん失ったら二度と彼女なんてできないよ?」

「ねぇ…今日って卒業の日だよね!?俺の人生卒業の日じゃないよね!?」

「あーあ…私がもう一年早く産まれていたら一緒に暮らせたのにね〜」

「1年でも2年でも…何年だって待っててやるわ。だからちゃんと卒業してこい」

「へぇ…冬馬のくせに言うじゃない。ちょっと見直したわ」

「お兄ちゃん、それミオの少女漫画の台詞だよね。カッコ悪いよ」

「何でそう言うこと言うの!?いい雰囲気だったじゃん!」


『在校生は体育館の整列をお願いします』

 放送が流れると俺たちはルカとミオと一旦別れる。俺と風花の胸ポケットには赤い花が刺され、卒業生の証明書みたいなものだ。


「俺たちも行くか」

「そうね。少し喋り過ぎたわ」


**


 正直卒業式で泣くなんて思ってもいなかった。卒業生と言う立場に加え在校生代表がミオだったのがトドメだった。途中ミオと目が合うとニコリと微笑んでくれたのがマジ天使だった。

 隣にいる風花にはドン引きされていたが無事に卒業式をする事ができた。担任の最後の言葉を胸に刻み、各々が仲間達と写真を撮ったり、卒アルに落書きをして思い出を作る中、俺は屋上へと足を運んだ。


「悪いな。待たせた」

「お兄ちゃん!待ってましたよ!」

「その呼び方懐かしいな」

「敬語出ないようにするの大変だったんだよ?それよりはい!」

 ルカは俺に小さなバスケットを手渡してきた。

「卒業おめでとう!冬馬くん!」

 中を開けると綺麗なきつね色のアップルパイが焼かれていた。


「ルカ…!」

 俺は思わずルカを抱きしめる。愛おしさやこれから会う時間が少なくなる悲しさ、色々な感情が交錯する。

 失恋から始まった俺たちの物語。お互いの足りない部分を補い合いながらここまで来れた。風花に振られてからどこか寂しげな感情が心の隅にあったけれど、ルカのおかげで気づくと無くなっていた。

「冬馬くん!?どうしたの?」

「ルカ、俺を選んでくれてありがとう」

「逆だよ。冬馬くんが私を選んてくれたんだよ?お姉ちゃんも花崎さんも…可愛い人がいっぱいいる中で私を選んでくれた。冬馬くん大好きだよ!」

 ルカは俺の首元を強く抱きしめる。嬉しい…嬉しいんだけど息できないから!レフェリー!レフェリーはどこですか!10カウントの前に死んでしまうから!


「初めてルカと弁当食べたのもここだったよな」

「あの時は振り向いて欲しくて必死だったんだよ!冬馬くんにことごとく流されて悔しかったんだからね!」

「同情されてると思ったんだよ!幼馴染の妹に慰められるとか俺…情けねぇ…って!」

「好きって言ったじゃん!!」

「お兄ちゃんとしてだと思ったのー!」

「でも…胃袋は見事に掴まれちまったけどな。あの卵焼き…死ぬほど美味かった!」

「ふふ…私に死角はなかったってことだよね!」

「俺と付き合うまでに結構な数告られたりしただろ?」

「まぁ…そこそこにされたよ?全部お兄ちゃんが好きなのでって断ったけどね!」

「それ絶対誤解されてるからな?絶対にルカブラコンだと思われただけだからな?」

「だって冬馬くんはお兄ちゃんなんだもん!!」

「身内ネタだろ!?」



**


「…何であんたは声枯れてるの?」

「いや…色々あってな?」

「風花ちゃん。きっと惚気すぎてだよ。ミオ、お兄ちゃんが部屋で「ルカ、好きだよ」って言ってるの聞いたことあるもん」

「ちょっと!?え…ミオ知ってたの?」

「お母さんたちも知ってるよ?」

 もうやだ…死にたい…付き合って3ヶ月目って本当恐ろしいわ。恋の魔法…信じますか?はい!信じます!


「あれは定期的な愛の供給だよ!ミオちゃんも大きくなれば分かるよ」

「お兄ちゃんはミオの彼氏を許しません!撲滅委員会立ち上げまーす!入ってくれる人!」

 挙手0…本当いつまで経ってもミオの彼氏事情は認められない気がする。

「そんなこと言ってるとミオの結婚式に呼んであげないからね」

「ごめんなさい!許すから花嫁姿見せてください!」

「ミオちゃんの花嫁姿より先に冬馬くんのタキシード姿見れるかもよー?」

「ルカちゃんの花嫁姿楽しみにしてるね」


「ミオは来年から創立初の2年生生徒会長、風花は国立大学に受かったし…皆それぞれ道があるんだよな」

「寂しいの?冬馬らしくないわね」

「おやおや〜?冬馬くん寂しがりやさんだね〜!」

「否定はしないぞ?また四人で集まりたいからな」

「ふふ…そうね。夏休みには帰ってくるわ、冬馬も大学の夏休み入ったら帰ってきなさいよ?」

「分かってる、てか定期的に帰ってくるぞ?」

「私のためだよね!」

「分かってるから言うな!恥ずかしいんだよ!」


 冬馬とルカ、二人の物語は15年経ってようやく始まった。秘めていた恋心、幼馴染に振られ、そして振り…たくさんの人に後押しされながら出来上がった不恰好な物語。

 ルカは冬馬の制服の裾をくいくいっと引っ張る。


「お兄ちゃん!大好きですよ!」

 その姿に思わずキュンとしてしまった。昔のルカと今のルカ、二つの姿が重なり思わず俺も笑みが溢れてしまう。


「彼氏として…だろ?」

「はい!!」










**


 おさいも!これにて完結です。これまで毎日のご支援本当にありがとうございました。

 私自身、個性豊かなキャラクターを描けてとても楽しかったです。4人の未来を想像していただけると私自身としても幸いです。


 次回作の執筆も始めていますのでこれからもぜひ応援よろしくお願いいたします!


 改めまして、たくさんの応援と評価ありがとうございました!!!

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幼馴染の妹だって恋愛対象だよね! 黒井しろくま @kuroi_shirokuma

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