───デート②。月の姫…


 ルカを花壇のそばにあるベンチへと下ろすと息を抜くために近くにあったチュロス屋へと行き、イチゴ味とシナモン味を一つずつ買ってベンチへと戻る。

「ルカどっちがいい?」

「私イチゴ味が良いです!イチゴ味を食べる私可愛くないですか!?」

「待て待て…シナモンって響きの方が可愛いだろ!俺の方が可愛いでQED!」

「ズルイです!えいっ!」

 ルカは俺の手に持っていたチュロスに大きくかぶりつく。モグモグと咀嚼した後パァッと目を輝かせている。

「お兄ちゃんこれめちゃくちゃ美味しいですよ!シナモンの甘さでほっぺがとろけそうです!」

「知ってるよ!だから買ったんだよ!」

「私のも食べますか?もう一口食べちゃったんですけど…」

「ちょうど気になってたし一口貰うわ」

「どうですか?美味しいですか?」

「この何とも言えない味と何とも言えない風味!そして何とも言えないあれが!」

 料理評論家とかってとりあえず何とも言えないって言えば何とかなる感あるよな。うん、なんとも言えない。


「お兄ちゃん、間接キスです!」

「せっかく気にしないようにしてたのに!後、恥ずかしくなるくらいなら言うなよ!」

 ルカは自分で言っておきながらも顔をほんのりと赤く染めていた。

「な…なんのことですか!私炎タイプなだけですから!」

「ちなみに特性は?」

「お兄ちゃんを炎上させる事です!」

「社会的抹殺じゃねぇか!檻の中で継続ダメージ受けるからやめろ!」

「今日のお兄ちゃんツッコミがキラキラですね!これは…ボケがいがありそうです!」

 水瀬ルカの暴走って曲出してもいいですかってレベルで今日のルカは暴走してるんだけど…俺の残機が既に残り2つだわ!

 間接キスとか恥ずかしいなら言わなければいいのにな!ルカの小悪魔は自分にもダメージが入るっぽいなー……諸刃じゃね!?


「ふぅ〜美味しかったです!お兄ちゃんありがとうございます!」

「お腹も満たされたことなので遊びにいきましょう!戦場へゴーです!」

 無邪気さゆえの狂気とは正にこのことだよな…ルカの国の民とか死んでも気づかれなさそうってレベル。ちなみに最終進化は「もう壊れちゃったの?つまんない…」とか言う感じのお姫様な。

 手を引かれるままに並ぶと辿り着いた先はジェットコースターだった。──いやいやおかしいだろ!?チュロス食べる+コースターに乗る=リバースしかないじゃん!

「ルカちゃん?お兄ちゃん吐いちゃうよ?」

「大丈夫です!私は元気いっぱいですから!」

「俺は!?俺の心配は!?」

「しょうがありませんね〜私の手握っててください!そして二人で愛を叫びましょう!」

「口から出るのは愛じゃ無くてチュロスなんだが!?」

 俺の不安を他所に時間はどんどん過ぎていく。運悪く一番前の席になってしまいました──さらばだ…風花、ミオそしてルカ…。意識がエクスプロージョンするわ!



「出発いたしますレバーにおつかまりの上お楽しみください」

 アナウンスと共に無情にもジェットコースターは動きだした。俺の意識が飛ぶのは言うまでもないだろう────


**


「ふぅ…楽しかったですね!お兄ぃ…ちゃ…ん!?」

「お兄ちゃんしっかりしてください!!」

 ジェットコースターから降りると冬馬は目の前が暗くなってしまった。

「ルカの幽霊が見えるぞ…俺死んだのか…」

「しっかりしないと既成事実作っちゃいますよ!!」

 ルカの呟きに目を覚ますとルカの膝の上で眠ってしまっていたようだった。外は夕暮れ時を迎え夕焼けが覚めたばかりの目に優しい光を与えてくれる。

「待て早まるな!」

「むぅ…復活したのは嬉しいですけど複雑です〜」

「俺の生き返った命を風花によって亡き者にされちまうからな!ルカちゃん、破廉恥な事は言っちゃダメですよ?返事は?」

「は〜い!先生!」

「ごめんなルカ。俺のせいで…もっと乗りたかったものあっただろ?」

「いえ!私もお兄ちゃんを振り回しちゃったのでちょっぴり反省です」

「気にするなよ。それより楽しかったか?」

「それはもちろん!お兄ちゃんありがとうございます!最高のおもてなしでした!」


 最高の…か。実は俺にはやり残した事が残っている。むしろ今からする事の方が重大なイベントだ。

「ルカ、最後に何か乗らないか?」

「そうですね〜。あれとかどうですか!」

 ルカの指差す方向には煌びやかに装飾が施された観覧車があった。

この時間から人も少ないだろうし、二人きりになれる絶好のチャンスだろう──覚悟を決めろ…俺。

「よ…よし!いくか!」

 ルカのへの声掛けとは別に俺は自分自身を奮い立たせるためにわざと大きな声を出す。そしてポケットに入った箱にそっと手を当てると不思議と緊張はほぐれていった。



**


 予想通り観覧車には人があまりおらず、並ばずともすぐに乗り込む事ができた。一周15分の一発勝負。

 空は夕焼けと夜が混じり合った幻想的な空間が映し出されており、観覧車の窓からはいつもとは違う様子の俺たちの街が一望できた。

「見てください!すごい綺麗ですよ!これこそ何とも言えないって感じですね!」

「そうだな。ルカ、改めて今日は誘いに乗ってくれてありがとな」

「おぉ…突然ですね〜。あ…!二人きりだからって変なことしちゃダメですよ!」

「今日誘ったのには理由が二つあるんだ。一つはバレンタインのお返しを兼ねて…そしてもう一つは───」

 俺はポケットから包装された箱を取り出すとルカの前に差し出す。

一度深く息を吸いゆっくりと吐き出す。吐き切った息を整えて目を開くと驚くくらいに心は落ち着いていた。


 俺たちの乗っている所は丁度頂上へと差し掛かろうとしていて最高の演出といっても過言じゃないだろうな。


「ルカ、待たせてごめんな。俺が辛かった時も笑っている時も隣にルカがいてくれて…それが当たり前になってたんだ。ルカのこれからを俺が必ず幸せにして見せるだからっ───!」

「落ち着いてください。大丈夫ですよ、私はここにいます」

 もう一度ゆっくりとルカの目を見定めると口からは自然とその言葉が流れた。


「俺はルカの事が好きです。付き合ってください」

 何秒の時間が流れただろうか──体感にして数時間、数十分。実際は10秒にも満たなかっただろう。

 沈黙を破ったのはルカの小さなすすり泣きだった。


「お兄ちゃんのバカです…遅すぎますよ。私、ずっと好きだったんですから!ずっとあきらめないで……本当に夢じゃないですよね。嘘じゃないですよね…?」

「本気だ。この言葉に人生賭けてもいいぞ」

「バカぁぁぁ!私だって大好きです…!あなたの好きなんかよりもずっとずっと大きいんですから!」

「ルカ落ち着けって!な…?」

「そ…そうですね…えへへ…」


「お兄ちゃ──冬馬くん。私で良ければ付き合ってください!」

「ありがとな。俺の全てを賭けてルカを幸せにするぞ!」

「それと…その箱開けてみてくれないか?」

 ルカは涙を拭いながら箱をそっと開ける。そこには小さなアメジストが埋められたネックレスが丁寧に入っていた。


「ありがとうございます!私、一生大事にしますね!」

「ダメになったらいくらでも買ってやるからな?」

「冬馬くん!大好きです〜!」

「慣れなくて少しムズムズするな…でも、俺も好きだぞ」

「んっ…!!」

「何そのポーズ?」

「ぎゅーしてください!ずっと我慢してたんですから!」


 冬馬はルカの隣に席を移すとガラス細工に触れるようにそっと抱き寄せた。

「ま…満足か?」

「愛が足りません!もっとです!」

「ほら!観覧車終わるから!また今度な?」

「仕方のない観覧車ですね〜。許してあげましょう!」


 幼い頃から恋心を隠しながら生きてきたルカにとって今日という日は夢のような日々だった。

 もう、胸を張って言っていいんだよね…?


「早くこっちですよあなた!」

「旦那じゃねぇわ!!」

 流石に騙されませんか〜。

ルカは大きく手招きをしながら冬馬を呼ぶ。その首には小さな紫色の光がチラついていたのだった。

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