───デート①。思い通りに進まない…



 2月が終わり春の訪れを感じさせる3月へと季節は移り変わろうとしていた。外に出るとヒヤリとする事もあるが時々吹く春風には思わず笑みがこぼれそうになる。

 3月14日───俺はバレンタインのお返しを含めてルカをデートに誘うことに成功した。鏡向かって何度も練習しているところをミオに見られた時は羞恥のあまり鏡に飛び込みたくなったな。

 鵜崎冬馬17歳。俺は完璧なデートプランをネットの情報を頼りに何度も試行錯誤を繰り返した。量産型のキャピキャピした女を対象にしたサイトをサーフィンしながら小さなメモ用紙に書き写した。さぁ…準備は整った…行こうか。戦場…高天ヶ原へ!


「お兄ちゃんが遊びに誘ってくれるなんて珍しいですね!闇堕ちしたライバルが這い寄ってくる感じと似ていたので信じられませんでした!」

「ツッコミが一部分にしか伝わらないんだが…俺をヒキニートと勘違いしてるだろ!」

「いいか?かの有名な目が死んでる系学園主人公は家から出ないと思わせておいて実は人のために動いているんだ」

「…てか俺結構ルカの家行ってるよな!?」

「一人劇場です!?私も登場させてくださいよ、役職はヒロインで!」

「主人公俺、ヒロイン俺だ!もしくはヒロインはミオで!」

 ルカからのシスコンコールは置いといて───お前のお姉ちゃんも大概シスコンだと思うのだが!?風花にバレたら殺されるから絶対言わないけど!


「これからは私がヒロインですもんね!」

「まだ違うだろ!」

「俺の完璧なデートプランに今日は付いてきてもらう…覚悟しろよ!」

 プランその一。無難に遊園地で吊橋効果が得られるらしい…がルカって絶叫とか得意じゃなかったっけ?

 俺の抱える不安要素を横に俺たちは遊園地へと辿り着く。俺の横でルカは子供のように「おぉぉぉ!」と感動に浸っていた。

「まともです!絶対図書館に連れて行かれると思ってました!」

「ふっ…俺に死角は無いってことよ!思い知ったか!」

「それとあんまピョンピョンするな!」

 本当跳ねるのやめていただきたい…兎みたいで可愛いんだけどミニスカのせいでパンツが!兎さんがこんにちはしてるから!!

「見たんですかー?お兄ちゃんのエッチ!」

「分かってるなら跳ねるな!兎はパンツだけにしておけ!」

「あぁぁぁ!やっぱり見てるじゃないですか!こんな事ならクマさんにしておくんでした…」

「柄の問題じゃない!羞恥心の問題だ!」

「お兄ちゃんは何の柄がいいんですか!教えてください!」

「はぁ……パンダだよ!!」


**


 無事に人の列に乗じて入場する事ができたのはいいんだかルカのやつ…受付のお姉さんに「カップル割りで!」とか言うから恥ずかしかったんだけども…


「あなた…これは私たちの結婚の証ですよ!」

「誰があなたじゃ!指輪じゃ無くてフリーパスな!?」

「お兄ちゃんって旦那様の方が良かったりしますか?」

「断じて違うわ!俺は嫁にはパパって呼んでもらいたいの!」

「ではパパ!早速乗り物乗りましょう!」

「ツッコミのデッキが無くなってきたぞ…ルカ…恐ろしい子!」

 ルカに手を引かれ、名前も見ずにアトラクションに並んでいると奥から悲鳴のような声が聞こえてきた。

「そろそろ何に乗るか教えてくれないか?心の準備ができない」

「この悲鳴!ヒンヤリした風!お化け屋敷に決まってるじゃないですか!」

「ルカ…悪い事は言わない。帰ろうか」

 俺は列をはみ出しそのまま出口へと向かう準備をする──とルカに手首ガッチリホールドされた。

「嫌ですー!お兄ちゃんとお化け屋敷入って可愛い女の子アピールするんです!」

「計算高すぎてルカの方が怖いわ!」

「あざとさは計算の上で成り立ってるってテレビで言ってましたもん!」

「お願いします!私ここに着いてからずっと楽しみにしていたんです!」

「はぁ…分かった。怖くて腰抜けても知らないからな?」

「上等です!」

 ルカはファイティングポーズを取ってやる気満々の様子を見せる。俺は忠告したからな…この日本一怖いと言われるお化け屋敷に入るって事は……な?


「次のお客様どうぞー」

「さて、引き返すなら今のうちだぞ?」

「こう見えて私フリーのホラーゲームやった事があるので大丈夫です!ブルーベリー色の怪物ならバッチ来いですから!」

 なんでこうフラグを建てるのが好きなのかね!係員に流される前俺たちは洋館のような造りのお化け屋敷に進んでいく。道は一つだけなので進めばおのずとゴールに着くってわけだ。

「入った瞬間肩が重くなったんだけど……って何してるの?」

「お兄ちゃんの肩に塩撒いてるんです!」

「盛り塩感覚で俺の肩に塩をもるな!ルカ…その右にいるのなんだ…?」

「えぇ…?何にもいませ……ん…あぁぁぁぁぁぁぁ!!!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

 ルカに触れていたのは本格的なフランケンメイクを施された係の方だった。特殊メイクカッケェっす。

「落ち着けって!大丈夫だから!」

「無理です無理です!目開けられないです助けてください!」

「言わんこっちゃない……」

 洋館なだけあっているのは西洋風のお化け達が多くいた。吸血鬼、ミイラ男、狼男、イエティにポルターガイストを思わせるセットの数々。

「お兄ちゃーん!置いて行かないでくださいよぉ…」

「座り込んでないで早く行くぞ!」

「腰抜けちゃいまして……お兄ちゃん後ろからチェーンソー持った13日のやつが追いかけてくるんですけど!お願いします助けてください!」

 俺はルカをおんぶしにいくと、猛スピードで13日が追いかけてきていた。

「おいおい!流石に本気で走りすぎだわ!こちとらルカ背負ってるんだぞ!?」

「なんですかなんですか!私が重いみたいじゃないですか!」

 ルカは背中で俺の頭をポカポカしてくる。重くないんだけど──てかどこまで追いかけてくるの!?

「出口です!そのまま相手のゴールに!」

「シュゥゥゥトじゃないから!自分で走らせるぞ!?」

「それだけはご勘弁を!」

 ルカを背負いながら俺は何とかゴールする事ができた。薄暗い洋館の中から出たばかりなので陽の光が痛いくらいに目に刺さってくる。


「ふぅ…逃げ切れましたね!」

「ルカちゃん?何でドヤ顔なの?お兄ちゃん疲れちゃったんだけど?」

「デートはまだまだこれからですよ!」

 これからなのはいいんだけどさ…とりあえず俺の背中から降りてくれないか!?これじゃ俺が変態趣味の高校生に見られちゃうから!!

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