灰にまみれた世界の片隅で

鈴風飛鳥

第1話 灰にまみれた世界の片隅で

 ――聖灰教歴二百四十七年。


 人間はかつて、豊かな地上で暮らしていた。

 無数に並んだ高層ビル、舗装された道、電車やバスといった便利な交通手段、整備された生活環境。


 長きに渡って伝えられてきた知恵と技術と恩恵を受けて、平和な日常を過ごしていた。


 だが、当たり前の日常は突然終わりを告げた。


 世界中の空が厚い雲に覆われた。

 動揺する人々を前に、空から灰が降り注いだ。


 人々は言った。『世界中の火山の同時噴火』、『テロ組織による、世界同時多発テロ』、『地球外生命体からの攻撃』。

 そのどれも信憑性も確証もないまま、灰は止むことなく降り続けた。


 日の光が差さない世界で、徐々に変化は起こり始めた。

 気温が下がり、作物は枯れ果て、充分に育たなくなった。

 木の実や野菜、果物を主食としていた動物たちは、食べるものが少なくなり時間をかけて絶滅していった。

飢饉や飢餓に苦しむ人が増え、各地で食糧を求めては争いが起こった。


 危機を察知した人々は、灰の魔の手が及ばない地下へ移り住んでいき、次第に地上に住む人間は少なくなっていった。


 人間の適応力はすさまじいもので、地下へ移り住んだ後、受け継いだ技術や知識、知恵をもとに人々は地上と変わらぬ生活を手に入れることとなる。


 しかし、どれだけ月日が経とうとも、灰への対抗手段は見出せていない。







 ――――地上では今もなお、消えることの無い灰が降り続いている。



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