幸せな娘

洗脳済み捕虜

幸せな娘

あるところに、貧しい父子家庭がありました。

父親はいわゆる飲んだくれで、一日中酒を呷っては寝て吐いてを繰り返し、

娘のほうは、外の世界を全く知らぬまま、汚い家の中で父親の言い成りで生きており

一日中、父の酒代となって消えていく造花をこしらえては、

カビだらけのパンくずを、あるいは父親の吐瀉物を食らい、

なんとか命を繋いでおりました。


ある時、父親は吐いた物を喉に詰まらせ、あっけなく死にました

娘が困り果てておりますと


突如、一匹の悪魔が現れ、こう言いました


「ずっと見ていたよ、君はとても可愛らしいね。

君のその美しさと引きかえになんでも願いを叶えてあげよう」


娘は、自らが美しいことも知らず、

美しさに価値があることも知らず

さらには自分が叶えたい願いもあらず、

これからどうするべきなのかも全くわかりません


娘が考えを巡らせ、思い至ったのは、

遠い昔、ギャンブルで勝った父が気まぐれで買ってきてくれた

「ホットドッグ」という食べ物でした

それは、娘が知る中での最高に美味しい食べ物であり、

彼女唯一の幸せの象徴だったのです




「ホットドッグが食べたい」



娘は美しさと引きかえに、ホットドッグを食べ続けました。

絹のような肌は、徐々に吹き出物で満たされ岩のようになり

柔らかな髪は縮れやがて抜け落ち、かわりに疣と瘤が頭を埋め尽くし

華奢だった身体は膨れ上がり、最早、人と認識できないほど巨大になりました。


しかし娘にとっては、どうということもありません


口の中にはホットドッグ

体内にもホットドッグ

心も思考もホットドッグ

眼下に置かれた大量のホットドッグ


嗚呼




その後

異臭に気付いた村民が、家の中に立ち入りました

そこには白骨化した男と、

自らの重さで押し潰れ息絶えた怪物がおりました


村民は口々に、この父子を哀れみましたが

怪物になった娘が幸せの中死んでいったことは

悪魔以外誰も知らなかったということです

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