空の境目

内木裕大

第1話 プロローグ

「少し外を歩こうか。」

特に理由はない。窓から外を眺め、ふと浮かんだ言葉を口に出してみれば体はその気になり私、篠崎洋介は準備を始める。

今は10月半ば、時刻は5時を過ぎたところ。もう残暑も終わり季節は完全に秋を迎えた。

肌寒さを覚えた俺はコートを羽織り外に出る。

もう日が落ちかけており空は赤みがかっていた。

そんな空をぼんやりと眺めながら歩いて行く。

(帰ったら課題の続きをやらねぇと。でも量が多いし夜中までかかるよなぁ。なんかコンビニで買って帰るか。)

空を眺めていても心は上の空、頭の中ではずっと今日の課題の事を考えている。

(なんで俺高校入ったんだろうな。対して勉強も好きじゃないし、なんなら嫌いなのに。)

思わずため息が出た。

(高校だって行けたらどこでも良かったから、学校から推薦貰ったところで楽しようと思ったのになんか進学校で課題多いし。進学校だったなんて入学するまで知らなかったわ)

自分で調べなかった事を棚に上げてブツブツ文句を唱えた。

元々メンタルが強い方じゃなかった俺は一度悪い方向に物事を考えるとどんどん気分は沈んで行く。

(勉強は嫌い、やる気はない、特に取り柄もない。今の社会に必要なもん全部ねぇじゃねぇか。やっぱ俺って社会不適合者なのかねぇ)

そんな事を考えていると橋に着いた。コンビニはこれを渡ってすぐなのだが俺は手すりに手をかけぼーっと川を眺め始めた。

川は近くの山と山の間を流れており空の赤、山の緑、川の青を一望できるこの場所は洋介のお気に入りだった。

(これ見てるとなんかどうでも良くなってきたわ。)

心を無にして景色を眺める。時折、名前も知らない鳥が集まって飛んでいる姿が視界に入るがそれも趣深い。自分の真下を流れる川の音を聴いていると不思議な気分になる。

(もしもこのまま俺が身を投げたら、どこまで流れてくんだろうか。このまま死んだら何も考えなくてもいいのかな。)

そんな馬鹿げた考えを持った自分に笑いが溢れた。

「流石に死ぬのはねぇな」

(死ぬのは無いけど、あるとしたら退学か。でも退学してまでやりたい事も夢もねぇ。死にたいと思う理由は無いけど生きたいって思う理由も無い。なんの為に生きてんのかな。)

次々とネガティブな思考が浮かんでは消えていった。そんな俺を現実に引き戻したのは母からのメールだった。

『いつまで出かけてるの。早く帰って来なさい。』

そのメールで我にかえった俺は時間を確認する

「やっべ、もう5時40分じゃん!さっさとコンビニ行って帰ろ。」



夜中、課題をやりながら食べるお菓子を数点買ってコンビニを出たときには6時前、空はすっかり暗くなっていた。

(ほんとこの季節はさっきまで明るかったのにたった数分で一気に暗くなるよなぁ。道中街頭なんて無いし暗い中帰るのちょっと怖いわ)

いざとなったら携帯のライトで照らして帰ろうと考えて俺は帰路に着いた。

帰り道で行きも通った橋を渡る。その際にまたあの景色が目に入るが、暗闇で見るそれは先ほどとは全く別物だった。

空はもちろん、山と川も黒く染まり、途端に不気味なものに姿を変える。

しかしそれを俺は美しいと思った。

特に川と空との境目は目を凝らしても全く分からなくなっていた。それもそのはず、そもそも川に色なんて存在しない。透明な水に光が反射し景色が映っているだけだ。つまりは川の色は空の色、光がなく真っ黒な空を映し出した川が空と色が酷似しているのは至極当然のことなのだ。その見分けの付かなくなったそれはまるで、

(凄い。夜空が溢れ落ちているみたいだ。)

その幻想的な景色に思わず俺は橋を駆け抜け土手を降り川辺まで足を運んだ。

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