3
森の光る植物たちは、まるで消えてしまった月や星の光を吸収して、今、夜の時間に月や星の代わりに、夜を明るく照らしてくれているように見えた。(その淡い光は夜の光だった。明るい時間のあの輝く太陽の色とは、どこかが少し違っていた。あるいはそれは光の温度だったかもしれない。森の植物たちの発光する光は、どこか冷たい印象があった)
檸檬はそんな植物たちの放つ光に目を向ける。
『私を見てよ。もっとちゃんと私を見てよ』くすくすと笑いながら影は檸檬に言う。でも、檸檬は影をもう一度、見ようとはしなかった。
檸檬は静かに、音を立てずに暗い森の中を歩き出した。光を放つ森の植物たちの間にある、まるで道のようになっている、暗い空間の中を、ゆっくりと歩き始める。
『どこに行こうっていうの? たとえどんなに遠い場所に行ったとしても、私からは逃げられないよ。だって私は檸檬。あなた自身の影なんだからね』真っ暗な道の中で、消えてしまった影は言う。
「……知ってる」
小さな声で檸檬は言う(小さいけど、それはとてもはっきりとした口調だった)
檸檬の声は美しい声だった。
その声を聞いて、少しの間、影は黙った。
影が沈黙すると、世界の中から音は消えてしまった。森に生息しているはずの動物たちの声はどこからも聞こえてこない。あるいはこの真っ暗な森には、命を持っている存在は植物たちのほかには檸檬ただ一人だけなのかもしれなかった。
真っ暗な道を歩いていた檸檬は歩きながら空を見上げた。
そこには檸檬の歩いている大地と同じような真っ暗な空間が、やっぱり、ただ永遠と広がっているだけだった。
森の中を、少し強い風が吹き抜ける。
その風に頭にかぶっている麦わら帽子が飛ばされそうになって、檸檬は自分の手を使って、麦わら帽子がその風に飛ばされないように抑えた。
風はそのあと、すぐに止んだ。
暗い夜の森 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。暗い夜の森の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます