檸檬は自分の通っている名門の進学校の(黒色の白いスカーフの)高校の制服を着ている。

 その上に深緑色の上品な(お気に入りの)コートを着て、首元には真っ白な綿毛のようなマフラーを巻いて、その細い足には黒いストッキングを履いている。

 靴は高校指定の黒の革靴。

 ……そしてその頭には、自慢の長くて綺麗な黒髪の上に、麦で編んだ、白い花がついて、緑のリボンが巻かれている、丸い形をした麦わら帽子をかぶっていた。

 その特徴的な帽子以外は、いつもの朝、高校に登校するときの檸檬の服装そのものだった。

 ただ、荷物は高校指定のいつものカバンではなくて、檸檬は高校指定のカバンを持っておらず、その代わりに背中に小さな白色のリュックサックを背負っていて、その中に荷物は全部詰め込んであった。

 余計なアクセサリーはなにもしていない。

 腕時計も檸檬はつけてはいなかった。(檸檬は携帯電話を持っていない。なので今がいったい何時何分なのか、その正確な時間は、今の檸檬にはわからなかった)

 檸檬はじっと視線を下げて、自分の立っている大地の上を見つめた。

 そこには深緑の草や焦げ茶色の土や折れた小さな木の枝に混じって、檸檬の作り出している『自分自身の影』があった。

 その檸檬の影は『自分を見ている檸檬を見て、にっこりと笑っていた』。

『そう。なにもない空なんか見ないで私を見て。そして私ともっとたくさんおしゃべりをしようよ』とくすくすと笑いながら檸檬の影は檸檬に言った。

 ぼんやりと淡く光る森の植物の様々な光の中で、……その黒い影はやけにはっきりとした輪郭と黒い色を持って、大地の上に(あるいは檸檬の前に)存在していた。

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