暗い夜の森

雨世界

1 ……うん。おかえりなさい。

 暗い夜の森


 登場人物


 大橋檸檬 十六歳の少女


 影 檸檬の影


 プロローグ


 ……ただいま。


 本編


 ……うん。おかえりなさい。


 落ちる。

 真っ暗な夜の森の中に。

 そこで私は本当の君と出会い、二人だけの秘密の会話をする。

 ……この暗い森の中から逃げ出すために。

 もう一度、あの光り輝く明るい世界に、……戻るために。


 ……ずっと、眠っているの?


 その真っ暗な森の絵の中には、一人の泣いている子供がいた。


 檸檬が見上げる夜空は真っ暗だった。(それは、いつものことだった)

 星も月も出ていない、本当に真っ暗な闇に閉ざされている夜。

 そんな暗い夜の森の中に、一人ぼっちで大橋檸檬は佇んでいる。

 檸檬の表情はいつものように無表情だった。(そこにはなんの色も存在していなかった。ただのなんの絵も描かれていない、でも、いつかそこに自由な筆先でカラフルな様々な色を使って、絵が描かれるのを待っている、真っ白なキャンパスだけが、存在していた)

 無表情の檸檬は首を上に傾けて、さっきからずっと、そんな真っ暗な夜空の風景を(その真っ暗な夜の中に、なにかの意味を見出そうとするように)その青色に輝く大きな瞳で見つめ続けていた。

 檸檬は不思議な森の中にいた。

 その森に生息している植物達は、どれも明るい光を放つようにして、ぼんやりと淡く発光していたのだった。……理由はよくわからない。

 だけどそのおかげで、檸檬は真っ暗な夜の中でも、視界を奪われることなく、森の中を歩いて移動することができたのだった。(それは、本当に幸運なことだった。どこかに光がなければ、檸檬はこの真っ暗な森の中で、一歩も前に進むことができなくなっていたと思うから)

 やがて檸檬は夜空を見つめることをやめて(なにかの答えが見つかったのかもしれない)ゆっくりと森の中をあてもなく歩き始めた。

 そんな檸檬に『どうしたの? もう、星も月もない夜の空を見ることには飽きてしまったの?』と語りかける(やっぱり)不思議な声があった。

 その不思議な声を聞いて、檸檬はぴたっと動かし始めたばかりのその足を止めた。

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