リリス
白亜の首がもげたので、僕らは保健室に来ていた。もっとも保健室と言っても、ここには保健医はいない。いるのは“ドクター”だ。
「ちょっと“運動”が激しすぎたみたいで」
「お世話になります、ドクター」
首のない体に服はちゃんと着て、白亜は頭だけで挨拶をする。
「フム。頸椎部接合パーツノ耐摩耗性ニ改良ノ余地アリト。……ヨシ、治ッタヨ」
説明するのが遅れたが、白亜はバイオロイドである。生物であって生物でなく、また機械であって機械ではない。僕のためだけに作られた、カスタムメイドでオンリーワンの存在。
ちゃんと独立した人格は持っていて、ぼくとともに成長もした。一緒に年も取る。そのような機能を持っている。だから、間違いなく、首が取れたりすることもあるけれども白亜は僕の幼馴染なのである。
で、誰が白亜を作ったのかと言えば、ここにいるドクターである。白衣を着た人間か、って? いや、全然違う。彼は僕に会うとき、全身に防護スーツを纏わなければならない。高い気密性を持っていて、ほとんど宇宙服みたいなものだ。
なぜそんなものが必要なのかって、ドクターはマルガンセール星人で、ぼくは地球人だからだ。お互いの生存可能条件がまったく違うので、基本的にはこっちに向こうが合わせてもらっている。
何故って。
僕はこの宇宙にたった一人残された、遠い昔に滅びた地球の一粒種の、最後の子供だからだ。
聞かされた話だけれども、僕は地球という遠い昔に滅びた星からさらに遠い昔に脱出を試みた難民船の、最後の生き残りであったらしい。この、今ぼくらがいる惑星ヴァースにその難民船が辿り着いたとき、作動状態にあった冷凍睡眠カプセルは二つあったのだそうだ。
カプセルに「アダム」と書かれた片方には赤ん坊の僕が入っていた。もう片方には「エヴァ」と書いてあって女の赤ん坊が入っていたのだそうだが、こちらは蘇生することができなかった。そういうわけで、ぼくは地球人最後の生き残りなのである。
ヴァース星には多くの星系からやってきた多くの種族が暮らしていたが、地球なる星について知っている者はいなかった。ただ、地球がどういう星で、地球人の生存に必要な条件(大気組成とか)については難民船に情報が残されていたので、ぼくはその情報をもとに保護された。
ぼくにどういう生活をさせるべきか、というのも、絵と字の書かれた植物繊維でできた古い冊子(本、と言ったそうだ)を参考にして、なるべくオリジナルの地球での生活が再現できるようにと細心の注意が払われた。というわけで、僕は屋根のついた家に住み、可愛い幼馴染の隣人がいて、学校と称されるホログラム群の中で勉強と称されることをして、日々を過ごしているのである。
ちなみに、白亜と僕の間に子供ができることはない。そのような機能をバイオロイドに与えることは惑星ヴァースの技術をもってしても無理だった。というわけだから僕らはいつも――いや、これは説明しなくていいか。
そして、僕個人の生体細胞のクローニングは、挑戦はされたのだが無理だった。惑星ヴァースに結集する科学といえど万能ではないのである。というわけで、僕は僕個人の寿命が尽きた時点で死亡し、それと同時に地球人類は絶滅する。
そんな身の上は不幸だと思うかって? いや、別に。
だって、俺は俺の事が好きすぎて何でも言うことを聞いてくれる幼馴染が可愛くて仕方ないからね。
俺の事が好きすぎて何でも言うことを聞いてくれる幼馴染が可愛くて仕方ない件 きょうじゅ @Fake_Proffesor
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