第4話

 一ヶ月後、真衣ちゃんが教室で厚みのある封筒を私へ渡してきた。

「カンパ、なんとか集まったよ。女子校とはいえ二人同時だったから、みんなも大変だったけど15万円ある。受け取って」

「え……でも……悪いよ」

「受け取って」

「……うん…」

 私は千円札がたくさん入ってる封筒を受け取った。でもタメ息が出る。涙も。

「………はぁぁ……どうしよう……ぐすっ…」

「迷ってると手遅れになるから、田中さんは、もう済ませたらしいよ」

「……田中さんの彼氏は、なんて?」

「逃げられたって」

「………」

「ひどいよね、バージンもらっておいて、中絶までさせて本当の傷物にしたのに……逃げるなんて。死ねばいいのに」

「……ぐすっ……」

「………」

「…ひっく……どうしよう…」

「……美香ちゃん……無理かもしれないけど、元気を出して。ね……」

「………うん……ありがとう…」

 もらった封筒をポケットに入れて、おしっこをしたかったので女子トイレに入った。

「……ぅっ…」

 トイレの匂いを嗅いだら一気に吐き気がきて、洗面台に吐く。

「うぇえ! ケハっ…コホッ! うえぇええ! え、えううえ!」

 吐いても吐いても吐き気が消えない。胃液も空っぽなのに嘔吐だけが続いて息ができないくらい苦しい。喉が痛い、涙が溢れる、嘔吐で腹筋がブルブル震えるから、おしっこを漏らしてしまった。ジョワぁ、とパンツが濡れて両足が生温かい。背後で知らない女子たちがクスクス笑ってる声がする。

「ハァ…ハァ…うえっ…うえ…ぐすっ…」

 嘔吐プレイの次は、おもらしプレイなの。

 まだまだ、この後、お腹が大きくなって誰が見ても一目で私がエッチして妊娠したのが丸わかりな羞恥プレイも待ってる。妊娠後期はクシャミしただけで、おもらしプレイ。

 そして陣痛。

 この世で一番痛いとも言われる激痛プレイ。

 あとは人前で母乳をあげる露出プレイ。

 こう考えると妊娠って、すごい盛りだくさん。

 そっか、あの最高に気持ちよかったセックスから始まる一連の生理現象、一つのプレイなんだ。エッチして孕んで産んで、やっと完成。

 そう考えると…………産みたい。

 この子だって、あのコンドームの壁を突破してきた強い子。

 私は自宅に帰り、ママとお姉ちゃんに相談して産む方向で決めた。

 

 

 私の家に拓磨くんとご両親が来て、私とパパとママとお姉ちゃんで話し合いしてる。

「私は産もうと想います」

「「「………」」」

 拓磨くんとご両親の無表情が怖い。

「ダメかな?」

「………」

 拓磨くんが答えに困って、お母さんが代弁してくる。

「二人とも、まだ高校生でしょ。美香さんは退学になるかもしれないわよ」

「それでもいいし、不当に退学にしたってパパに訴えてもらいます」

「裁判しても長くかかるし。ストレートに高卒資格を得る方がいいんじゃないの?」

「私、想うんです。女子って成績が上位じゃなかったら、大学に行く意味も利益も薄いし、お金もかかるし。お金かけてもパートくらいしか無いことも多いから、高卒あっても、なくても関係ないかなって」

「………。あなたは、それでよくても拓磨は高校を卒業しないといけないわ」

「はい、卒業してほしいです」

「あなたは、どうするの?」

「行けるだけ学校に行って、でも産むの優先で頑張ります」

「………。拓磨との関係はどうするの?」

「できれば、就職してすぐ結婚してほしいです。無理なら、この子の認知だけでも。それも無理なら………ぐすっ……無理なら………一人で頑張ります」

「一人でって……」

「今はシングルも多いですし。なんとかなるかなって。高校中退でも」

「………」

「私の高卒資格と、一人の命、どっちが大切か、簡単な答えだから」

「「「……………」」」

「私は調べて気づいたの。10代の中絶って年間10万件。この10万人が生まれていたら10年で100万人。数字の上で少子化が止まるし。ごく自然なことじゃないかなって、10代で好き合ってエッチして子供できて。これってハッピーエンドなはずなのに、不幸にしようとする社会の方がおかしいって」

「「「………」」」

「……拓磨くん……拓磨くんは卒業してから………お願い、結婚して」

「…………わかったよ、美香」

「「拓磨っ?!」」

「美香と結婚する。どこかに入社してから」

「っ…ありがとう!」

「いっしょに頑張ろう、美香」

「うん!」

 私たちが決めたから、親たちも反対しなくて。

 私はハッピーエンドに至った。

 ハッピーバースディを、この子に唄える。

 そして言ってあげよう。

 君はコンドームの壁を突破して生まれてきた、強い強い子なんだよ、って。

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朝からR15な私と彼 鷹月のり子 @hinatutakao

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