アカイシさんは隠れたい……

ノビク

第1話 アカイシさんと青い鳥の日記帳

 深更、近くの自販機までペプシコーラを買いに走る。


 アカイシの夜は深い。


 古びたアパートの階段の下には、ずらりと並んだ集合ポストたちが、昼間の内に鱈腹食べたであろうその紙類を、今にも吐きたそうに佇んでいた。


『305』と書かれたポストの口を引っ張って開けてやると、豪勢なチラシ寿司のチラシと共に吐き出されてきたのは、グロテスクなまでに赤い『督促』の二文字が書かれた茶封筒。


「・・・・・・」


 アカイシは茶封筒を拾い上げて雑にポケットに突っ込むと、地面に散らばったチラシを拾い集めて、集合ポストのすぐ脇にある専用ゴミ箱に放り込み、重い足取りで自身の虚室へと向かった。


 築五十年の風呂無しアパートに住む人間にとって、「督促」の二文字はなんら珍しいものではないのだろう。


 しかし、まだまだアラサーの若男メンズなのにあんまりな状況ではないか。


 そう思いつつも、アカイシはまた、自分がお金を持っていない理由も十全に理解わかっていた。



 アカイシはここ数ヶ月の間、仕事をしていなかった。


 流行り風邪の影響により会社から解雇──そんな悲劇的なものではない。


 経営していたナイト飲食店の倒産──全くの人違いである。


 6ヶ月の派遣仕事をめでたく契約満了──全くのその通りである。


 アカイシは根がスピーディな体質に出来ているため、一つの職場が半年以上も持ったことがなかった。


 しかし、『引きこもりニート』という職業ジョブに関してはそれなりのキャリアがあり、数年間のブランクはあるものの、またあの状態に復帰したいという希望は年々強くなっていた。


「もう一度『引きこもりニート』をやってみよう!」


 年に二回も行っているスピーディな転職ジョブチェンジで少し疲れていたのかもしれない。


 そんな頓珍漢な決意を固めたアカイシは、この数ヶ月求職するでもなく、ただ漫然と家にいたのである。


 ただ家にいて、ただ預金通帳の残高が『マル』になるのを、ただカードローンの残高の『マン』が増えていくのを、ただ家計簿アプリの残高が『マイナス』になっていく様を、ぼうっと眺めていた。


 必然的にアカイシの納税の額は減り、この度、赤い文字が書かれた茶封筒を拾い上げる事態となったのである。


 *


 と、以上のような些細で楽しい日常を、アカイシさんは『青い鳥の日記帳ツイッター』に散漫に書いていたのだけど、ある日なんだかそれがとっても無味に感じられてしまった様子。


 アカイシさんは根がとっても恥ずかしがり屋であり、生粋の隠者ヒキコモラーでもあるので、SNSには向いていなかったのです。


「この呟く時間ツイーティングタイム、もったいないな?」


 そう感じたアカイシさんは、何か他に日記が書けるサービスを探すことにしました。


 ブログ、noteなども検討する中、少しの間を置いてアカイシさんが文を書き始めたのは、この小説投稿サイトのフォームでした。


 それは、アカイシさんが密かに売文稼業を志していたためであり、その鍛錬にしたいという思いなのでしょう。


 タイトルは「アカイシさんは隠れたい……」


 アカイシさんがこれからここに書いていくつもりの日乗は、孤立した隠者ヒキコモラーが主人公の物語ストーリーです。



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アカイシさんは隠れたい…… ノビク @nobiku_akaishi

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