Another episode

 昨日からお腹が痛い。


 きっと、変なものを食べたせいだ。


『――だって……死んじゃうんでしょ……、俺……ヤダよ……――』


『――ゴメンね、嘘ついて。私は……自分が嫌いで、人と比べられるのが怖くて、弱かったの……――』


 体調が悪いせいで、昨日見たヒト同士の下らない馴れ合いが頭に響く。


「あらやだ、ちょっと。お顔が真っ青ですよ、マスター。ヒト里で変なものでも拾い食いしたんじゃないでしょうねぇ?」


「うるさいぞ、ネルガ」

 コイツは使い魔のくせに、昔からいちいち一言多いのだ。


「ひぃー、こわや……こわや……」

 ヒュルリとネルガが消えていった。


 吐きそうに気持ち悪い。

 よほどあの東洋の魔女の力が、身体に合わなかったらしい。

 いや、予想よりも力が大きかったのだろう。


 我ながら馬鹿馬鹿しいことをした。


 あの魔女が禁忌を犯した時点で記憶でもなんでもとっとと消して、さっさとここに連れてくれば良かったんだ。


 大体、なんだ、あの魔女は。

 あれだけ力を持っていながら、覚醒していないとは何事だ。

 その気になれば、なんでも出来たのに、何故ほとんど力を使わずにいたんだ。


 鏡も大概ややこしい仕様に勝手に変更しやがって。


 おかげで、使えば使うほど進んだはずの魔女としての力の育成が遅々として進まなかったじゃないか。

 折角この私が、使用した者がすぐ覚醒するように、思い描いた姿にすぐ変身できるようにマジナイをかけておいたというのに。


 なぜ出来る力があるのに、やらないのだ。

 自ら封印しているのだ。

 日本に特に魔女が少ないことと、何か関係があるのだろうか。


「魔法の力は信じる力。それが上手く機能していないと、発現も上手くいかんのでしょうな。日本という国は世界でも自己肯定感が特に低いと言います。きっと今回の魔女以外にも潜伏している強力な魔法使いは沢山いるのではと推測できますよ」


 使い魔ポルジがフワリと飛んできて、くどくどと講釈を垂れる。

 話が長いのが玉に瑕だが、ネルガよりは役に立つ。


「フン、じゃあまたあの狭い店で店番を続けるか。たまにはお前らが店番してくれてもいいんだぞ?」


「いえいえ、私、日本語喋れないんで……」


「あっしもー。それ以前にメンドイしー」

 ネルガは言い逃げしてすぐ消えていった。


「……マスター。感傷は身体に毒ですよ。特に魔法使いにはね。心が何より重要なんですから。過去は忘れて、成すべきことに注力しましょう」


「お前もうるさい」


 指を鳴らして、ポルジを消してやった。


 感傷だと?

 下らない。


 慈しみや愛など、とうに捨てたのだ。


 私たちをあんな目に遭わせたヒト共がいまだに世界にのさばり、我が物顔していることが腹立たしくて仕方がなだけだ。


 私を生かすために穢らしいヒト共の手にかかり犠牲になった彼女のためにも、私は――。




 ――キィとドアが鳴り、仲間候補が今日も店に来た。


「いらっしゃいませ」

 日本語の挨拶もだいぶ堂にいった。


「何をお探しでしょう?」


 力を蓄え精々私の役に立っておくれよ――。

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鏡よ、鏡。 かえるさん @michodam

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