第3話
埼玉県警の捜査第一課、
「おう、三島君」
「あー、水上さん」
三島は水上に気づくと、笑みを浮かべた。
「なんだ、買い物か?」
「いえ。休みなんでぶらぶらしてました」
「じゃ、久しぶりに呑むか?」
「はい」
水上の誘いに、三島は嬉しそうな顔で返事をした。
「どうだ、何か変わったことはないか?」
「ええ。これと言った事件もありませんし」
三島はジョッキを片手に、ぶり大根を頬張った。
「……ただ」
三島が思い出したように箸を止めた。
「ん?」
「毎日のように交番に来る男がいて」
「なんのために」
「最初は遺失届に来たんですが。携帯電話の」
「うん」
「毎日のように、まだ見つかりませんか、まだ見つかりませんかって悲痛な面持ちで」
「どんな男だ」
「四十二歳の男で、派遣の仕事をしていて、日払いで暮らしているそうです。すぐに代替機を使ったようですが、思い入れが強いのか、どうしても紛失した携帯電話を見つけてほしいらしく。マナーモードにしなければよかったと後悔してました。着信音があれば誰かが気づいてくれるのにと。でも、回線停止はできない。万が一にも、バイブ音に気づいてくれる人がいるかもしれないと」
「うむ……。名前と電話番号を教えてくれるか?」
水上は、なぜかしら気になった。
一方、大典は、宇子の殺害方法を考えていた。「他言したら、あんたには一銭の金も入らなくなる。そしたら、こんな
……さて、どうする。――あっ!そうか。ホストを利用すればいい。ホストが宇子の部屋を出た後にすぐに部屋に入り、殺す。そうすれば、そのホストを犯人にすることができる。殺害方法は、……首を絞めるのが手っ取り早いか。何を使う?紐のような物がいいが、こっちからは持っていけない。すぐに処分しても、
携帯電話を紛失したという、
今時、公衆電話か?携帯電話を持っていないとか、充電のし忘れで使えないと言うこともあろうが……。一応、どこの公衆電話からか調べてみるか。
その公衆電話がある和光市の駅に着いた水上の頭上には、
公衆電話の前まで来た時だった。知った顔がパチンコ店から出てきた。
「あっ……」
水上は思い出すと、男を尾行した。――男はパチンコ店の駐車場に行くと、真新しい外車の傍らで足を止め、革ジャンのポケットから鍵を出した。その
「……確か、阿部さんでしたよね」
水上が声を掛けた。途端、大典の背中が伸びた。
「覚えてませんか?軍事評論家の阿部さんが亡くなられた時、警察署で事情を聴いた者です」
水上のその言葉に、大典は目を丸くすると、指先から鍵を落とした。
「あの公衆電話から、拾った携帯に電話したんですね?阿部さんの死亡推定時刻に」
突然死ではなく、殺しだと直感した水上は、当てずっぽうで言ってみた。途端、大典は顔を
「同行してもらいましょうか」
水上は、大典が落とした車の鍵をコートのポケットに入れると、抵抗する気配のない弱々しい腕を掴んだ。
雪が降り始めた。俯いて歩く大典に雪が降り注いでいた。
完
携帯は突然歌う! 紫 李鳥 @shiritori
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