あの日の出来事

アネモネ

第1話

その日は、朝から雨が降っており、草花はシトシトと降る雨により濡れそぼっておりました。

部屋の内から見える外には沢山の傘が行き交っていて、幼い子供から大人迄、様々な人達の声が聞こえて、何だか自分だけこの世界から弾かれた心持ちがして淋しいと感じたのを覚えています。

その頃、私は病気がちでとても学校へは行けそうな身体ではありませんでした。

医者にも「絶対安静」を言いつけられておりました。

治るかも分からない己の身体を何度恨んだ事でしょう...。

そして、その日も己の不甲斐なさを心に思いながらも床の上で過ごしておりました。

朝も昼も夜も1人での食事でした。

父は私の病院代を稼ぐために夜遅くまで働いておりました。

母は食糧を得る為、畑や近所の方の手伝いをしていました、故に、基本私は家に1人か、時々訪ねてくる叔母(と言っても姉のような歳の)と2人で過ごす事が多かった様に思います。

しかし、その日はたまたま1人でした。

読みかけの本もありましたし、それを進めようと思い、只管読み耽っているとあっという間に夕暮れ、気付くと外の人は疎らになっており、雨も強くなった様に感じた為窓を閉めようと床から立ち上がり窓の方に向かいました。

ガタガタと音を立てながら閉めている時目に付いたのが泥の塊でした。

ですが、私は「泥は家の外だから」と余り気にも止めず、そのまま放置し、閉めてしまったのです。

まァ、泥の塊など朝から雨が降っていれば出来る物ではありますが、その塊は何処か不自然だったのです。

まるで、その泥は何かが家に入り込もうとしている様に窓の下だけ土が変に盛り上がっていたのです。

ですが、幼い私は何も気にも止めず窓を閉め、夕食を食べに母屋へと向かいました。

母屋から自分の部屋へと戻ってきた時、不思議な違和感が身体を襲いました。

電球は付いてるはずなのに何処か暗く感じました。

まァ、雨が降っているからだろう、そう思い気にしない様にまた本に手を伸ばしました。

しかし、1度気になったものは中々消えずそれどころか更に私の心を蝕む様に黒く侵食していくのです。

中々本に集中することが出来ず、仕方なく本を閉じ、枕元に置くと壁に掛けてある時計を見るともう日付けが変わろうとしていました。

心の侵食は収まらぬまま仕方なく寝ようとしたその時でしたでしょうか。

トントン、と窓をノックするような音がしたのです。

最初は気の所為だと思ったのですがその音は止むどころかどんどん大きくなってくるのです。

カタカタカタカタカタカタカタカタカタ。

最初は静かな方に近い音でしたが、次第に音は大きくなり終いには、もう誰かが窓を殴っている様な音へと変わったのです。

ガンガンガンガンガンガンガンガン!!

枕で耳を塞ぎ、布団を頭まで被ってもその音は何処までも私を追いかけてくるのです。

朝を告げる鐘の音がするまでその音は続きました。

その音が止み、そっと布団から抜け出すと外から悲鳴が聞こえてきました。

外に出てみると外には沢山の人集りに、叔母、父、母がおりました。

皆が指さす先には私の部屋があり、その窓には、まるで何者かが泥にまみれ殴り続けた様な泥と血の跡がベッタリと着いていました。

今でも、その跡は取れずに残っています。

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あの日の出来事 アネモネ @kadenn

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