第16話 美少女は頑張り屋さん
昨日は大変だった。今後生きてて一生無いであろうと思われるシチュエーションを体験した。もし、あんなことがあったなんて誰かにバレたら俺の身が無事では済まないだろう。
そんなことを考えていると昼飯を食べている最中に俺の幼なじみの伊織がじどーっとした視線を送りながら話しかけてくる。
「おい翔。昨日プールの時間トイレ行ったっきり帰ってこなかったが一体どこで何をしていたんだ。先生も他の奴らも皆気にしてたぞ」
「あまりにも腹が痛くて保健室で休ませてもらった。近くに事情を伝える人がいなかったから放課後高久先生にもちゃんと伝えた」
昨日の放課後からずーっと同じこと問われてばかりだ。家に帰ってもLINEで『おい翔。どこで何をしていた?おいおい。教えなはれ!!』といったような文が何度も送られてきている。
伊織は俺の言葉を全く信用していないのか、何を言っても怪しい目で見てくる。
流石に『プール倉庫で二人きりで授業をサボった』なんてことを言えるはずがないだろ。
「とにかく、本当に腹が痛かったんだ。サボったわけではない」
話を終わらせるために俺は躊躇なく大嘘をついてこの話を終わらせようとした。
すると伊織はパッと何かを思いついたかのような表情を浮かべる。
「そういえば昨日、矢吹さんもいなかったよな……」
伊織はそう言うと更に何かを疑うような視線を向けてくる。
「おい……。まさか翔。抜け駆けか!?」
「そ、そんなわけないだろ。まさか俺なんかが矢吹と抜け駆けするわけ」
「だよなー。伊織にそんな度胸があるわけないもんなー」
この質問には多少動揺してしまったが、俺の嘘を全き疑わずに伊織は納得した。これは俺にそれほど度胸が無いと自信を持って言えるということなのだろうか。
ようやく疑いも晴れたところで昼休みが終わり、五限目の準備をする。
五限目は英語の時間だ。英語は一応中学三年まで習っていたため得意な方ではあるため別に苦ではない。視界に映った伊織は英語やりたくねぇというのが伝わるくらい嫌そうな顔をしている。
「皆さん、来週には待ちに待った中間試験が控えてますね。試験で絶対に赤点を取らないようにしっかり授業に取り組んでくださいね」
そう。来週は皆の嫌いなイベント――試験が控えているのだ。
クラスメイトは勿論、ほぼ全員が生命力を吸われたような表情をしていた。勿論テストは俺も好きではない。だが嫌いでもない。テスト期間は勉強をしたりと大好きな一人の時間を存分に使うことが出来るため嫌いではない。
実際テストはワークを二周ほどすれば六割以上の点数を取れるため、そこまで苦ではない。
この日の英語の授業は復習をメインに進んだ。クラスメイトは皆疲れ果てている。そんな中、一人授業が終わっても黙々と英語の勉強をしている人が目に入った。矢吹だった。
矢吹は友達に遊びに誘われても勉強をしなくてはならないと丁重に断っていた。
やっぱりそういう所でもなんというか、矢吹の人の好さが滲み出ていた。
六限目の日本史でも先生の解説にしっかり耳を傾けて懸命に取り組んでいた。俺はその時間、勉強をひたすら頑張る矢吹の姿に目を惹かれていた。
六限目が終わり放課後になったが、矢吹は当たり前のように居残り勉強をしていた。他の生徒はほとんど帰ってしまい残っていたのは矢吹を含めてたったの三人だった。
俺も早く帰ろうとしたその時。
「阿良田さん」
声を掛けられた方を振り向くと、そこには丸眼鏡をかけた矢吹の姿が目に映った。丸眼鏡をかけた矢吹は普段よりも幼く見えてとても可愛らしかった。
「ん?俺は帰って勉強するぞ」
そうだ。テスト期間は早く家に帰って一人で勉強をする。それが俺のテスト期間でのスタイルだ。
だが矢吹は何も言わずにじーっと見たままだった。何も言っていないが何を伝えたいのかを俺は感じた。
『一緒に残って下さい』
絶対これだ。口では言わなくても顔に大きくそう書かれている。
「俺も教室に残ってけってか?」
矢吹はなんでわかったんだと言わんばかりの顔になる。
「な、何で分かったんですか!?」
言わなくても分かるわ。まさかここまで矢吹の心情を読める日が来るとは一度も思っていなかった。
仕方なく俺は一緒に勉強をすることになった。
教室に残っていた二人の女子生徒が驚いた表情でこちらを見ていたが、それは当たり前の反応と言ってもいいだろう。というか普通の反応だ。
「矢吹。お前授業が終わった後も黙々と勉強してたけど、すごい頑張るな」
矢吹は俺の質問にやさしく微笑んで答えた。
「はい。私は決して頭がいいわけではないので勉強しないと全然ダメダメなんです。なので少しでもいい点数を取りたいんです。そのためにはやっぱり勉強あるのみ!だと思うのでテスト期間は誰とも遊ばず一人で勉強してます。この時期は私も阿良田さんと同じぼっちなんですよ」
めっちゃいい子。健気でいい子。そんな熱心にテスト勉強に取り組むとかいい子に違いないだろ。
俺は矢吹の頑張る姿勢に少し感動した。矢吹は優しくて可愛い。そしてすごい頑張り屋さんなんだな。
「めっちゃ頑張り屋さんなんだな。というか矢吹ってすごい頭いいかと思ってたわ」
矢吹はからかわれていると思ったのか、肩をポンポンと叩いてきた。
「もう!それはからかってますね!悪かったですねバカで!」
いや、バカとは言ってないぞ?
そして俺たちは教室で一緒に居残り勉強をすることになった。
……ん?今まで一人で勉強してたのになんで俺を誘ったんだ?
偶然助けた学校一の美少女がぐいぐい迫って来て超絶甘党攻撃でビターな俺の心を溶かしてくる件について 小村 イス @gakumamon
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