第1章:GCSO躍進編
第16話 チーム・ドラゴン始動!
真っ白な背景に等間隔で薄い線が網目状に引かれた空間。シンプルなその光景の中にリュウとウラはいた。リュウはいつものアバター姿だが、ウラのアバターが今まで使っていた物と違う、仮定員専用の姿になっていた。
金髪を両耳の下からおさげにして垂れ下げた髪型に上は黄色いベスト状の服に銀や白の模様や装飾、下はベージュのミニプリーツスカートに茶のベルト経由で左右一対ずつ鞘が覗いている。刀身の丈は短めでウラ自身が両手にそれぞれ握っているのも短剣だ。黄土色の柄から銀の刃が煌めいている。
手足には白を基調としたロンググローブとブーツを着用しており、黄色い模様が裾部分から見える。全体的に黄色を主軸にした明るめの衣装だ。
そんな新たなアバター姿のウラは軽く息を入れた後リュウに突撃。両手それぞれの短剣を振りかぶるが、銃剣の剣モードにあっさり止められてしまう。リュウは表情一つ変えずに短剣を腕ごとはじくと、ウラの腹にミドルキックを決めた。
「ぐえっ!リュウさ~ん!ちょっとは手加減して下さいよ~!」
白い床を綺麗に転がり醜態をつくウラ。リュウは顔色を変える事なく武器をしまう。
「全然手加減してるっつーの。訓練なんだから」
「うーん。でもV gazerってホント凄いんですね。バーチャルなのに動きがリアルっぽくて」
バイトなので正式ではないが仮定員の一員になったウラ。当然使用するダイブシステムもV gazerになっており、絶賛その恩恵を受けている所で。スクワットをしたり腕を回したりと落ち着きがない。
「それでも出力はまだ抑えてあるけどな。実際の現場で本気ダイブしてみ。飛ぶぞ」
「ま、マジっすか…」
期待と不安が交ざったような顔をするウラ。一喜一憂が分かりやすいのは若さゆえか。リュウは微笑みながらディスプレイを操作する。
「さて、訓練もだいぶ進んだしそろそろ本番行ってみますか」
「つ、ついにですか…」
「ああ。とりあえず段取りとか説明するから
「は、はい!」
緊張も読み取れるまで体を細かく表せるのはさすがV gazerと言った所。リュウに続きウラもログアウトした。
一同が横たわっている寝室のベッドがウラの分一台増えている。少し詰める形となっているが元から広さがあるため極端に狭くはなってない。新設されたフカフカのベッドから起き上がり、ウラはV gazerをはずす。こみ上げるものが色々あるのだろう。感慨深そうにV gazerに反射する自身の顔を見ていたウラだが、ふと視線を感じ振り向く。
隣のベッドに座り自分を見つめる女性がいるがセイラではない。首までのショートヘアが綺麗にまとまっている、眼鏡をかけたその人はパッと見セイラよりは年上か。左右に均等に流れている前髪の下にある目線は輝いており、さしずめ期待の眼差しと言ったやつか。ウラはもちろん面識がないので少し引き気味に上体を傾けるが。
「君が浦ちゃん?」
「は、はい。そうですけど…」
返答を聞いて目の輝きを増す女性。なめ回すようにウラの全体を見る。
「ほうほう。なかなかの逸材ですな~。あ、私は元木柑奈(もとぎ かんな)。そこにいるおじさんの上司ね。よろしく」
正体が知れれば警戒も解けるもので。引き気味だったウラはお辞儀で返した。
「よろしくお願いします!ていうかリュウさんの上司さんなんですね。えと、お世話になってます!」
「おいおい。いきなりおじさん呼ばわりはねぇだろ」
「しっかしかわいい娘を引き入れたね~。なかなかやるねリュウちゃん」
リュウのツッコミを意に介さず笑顔でウラを見るカンナ。
それにしても上司と部下であるはずの二人の掛け合いは軽快で。当然気になるウラに声をかけない理由はなかった。
「お二人共仲がいいんですね。もしかして…」
少し高揚して話すウラ。初対面から見ればこの手の話題になりやすいのだろう。カンナは笑みを強めて手を軽く振る。
「ああ、ないない!ちょっと付き合いが長いってだけ。前の職場から一緒だしね」
「そうなんですか。ていうか前の職場って…」
「つか何しに来たんだよ。まさか浦にあいさつしに来ただけって訳じゃないんだろ?」
気になる話題が垣間見えたが、リュウに半ば打ち切られる形で転換されてしまう。それに答えるようにセイラが割って入って来た。よく見るとベッドそばのメインパソコン前で作業しており、カンナと共にリュウ達を待っていたようだ。
「せっかく浦が来てくれたって事でいい感じの仕事を持ってくるように言ったのはリュウじゃないの?柑奈さん時間をかけて探してくれてたんだから」
「そうそう。かわいい後輩が出来たって言うから頑張って探したんだからね!」
どうやら色々根回しをしてくれてたようで。ウラは再びお辞儀。というより頭が上がらないと言った感じか。
「ありがとうございます!あたしなんかのために…」
「いいってことよ!つかあたし“なんか”なんて自分を卑下するような事言っちゃダメだぞ?こっちはあくまで仕事としてやってるだけなんだから。それより一日でも早く仕事に慣れてそこのおじさんを楽させてあげてね」
「は、はい!」
笑顔で答えるウラとは裏腹にリュウは軽くため息。おじさん呼ばわりへのツッコミを諦めた感情が乗ってそうだ。
「そんな訳でさっきも言ったがこいつが俺の上司。今みたいに仕事を持って来たり、俺らが仕留めた相手を
「ま、言うてメインは事務なんだけどね。改めてよろしく!」
「はい!お願いします!」
紹介も終えウラも何度目かのお辞儀。カンナが立ち上がりリュウとセイラも続く。いよいよ初仕事が始まるのだろう、ウラは小声で“よし!”と気合いを入れ一行に着いて行った。
リビングのテーブルを囲むように座る一行。ユズキも合流しておりカンナが上座に座る形となっている。
「さて、今回の依頼はこれ」
カンナがタブレットを取り出し、食い入るように見つめる一行。画面にはとある画像や文章がズラリと。今回の件についての情報だろう。
「依頼主は林道茶屋(りんどうちゃや)の二代目、林道幸太郎(りんどう こうたろう)さん。ちょっと前にあるトラブルに巻き込まれて、色々調べてたら私達の事を知って連絡したみたい」
「ちょっと待て。林道茶屋って、あの林道茶屋?」
「お。さすがに知ってるね~。そうだよ」
「「「え~!?!?」」」
何かに気付いたリュウの質問に答えるカンナ。それを聞くや否や一行は驚きを露わにして。唯一ユズキのみが何事かと言わんばかりに唖然としていたが。
「どうしたんすかみんなして。そのりんどー何とかってそんな有名なんすか?」
「お前マジか!あの林道茶屋だぞ!?知らねぇの?」
「うわ、ないわー」
どうやら相当有名らしくユズキの反応に逆の意味で驚きを表すリュウ。ウラに至ってはあからさまに引いている。
「前にSNSを中心にバズった和菓子屋さんで、今も朝一から並ばないと買えないくらい人気のお店なんだよ」
「俺も並んだんだけど買えなかったんだよな。つかお前引きこもってネットとか見てるくせに知らねぇのかよ」
「え、柚樹君って引きこもりなんすか?うわー…」
優しさを見せてくれたのはセイラのみで。リュウはツッコミを増しウラは更に引く。冷たい対応にユズキはすっかりふてくされてしまった。
「どうせ俺は世間に疎い引きこもりですよー。すいませんでした~」
「で、その林道茶屋が俺らに一体何のご用で?」
そんなユズキの態度は意に介さず話を戻すリュウ。カンナも特に気に留めずタブレットを操作した。
「事の発端はジムタウンって言う街作りゲームなんだけど、林道さんはそこにバーチャル支店を出店したらしくて」
映し出された画面にはジムタウンについての簡易的な説明が。よくある街を構築させるゲームをよりオープンかつバーチャル向けに発展させたものであり、様々な人が決められた空間内に建物を建設し自分の好きなようにアレンジしていく。
他にも自然物や商業施設、はたまた学校等も作ったりして他者のスペースと繋げる事でユーザー同士の交流や更なる発展を重ねていく…ある意味バーチャルの恩恵を一番に受けているタイプのゲームだ。
「お店の宣伝になるようにってジムタウンの中でも特に開発が進んでるエリアに支店を構えたんだけど、どうにもその場所の権利を主張する人が現れたとかで今トラブってるらしいの」
「妙にリアリティのある話だな…」
リュウがそういうのも無理はない。
「とりあえず双方の言い分を聞いてみない事には始まらないけど、私達を頼ってきたって事は相当こじれてるっぽいね」
基本的にゲーム内のトラブル処理にあたるのは運営の仕事だ。だが発展したバーチャルでの問題はそう簡単に解決するものではなく、だからこそ公的機関としてのGCSOがある。今回のように例えささいな問題であっても依頼が来た以上は対処しなければならない。
「まずは林道さんから話を聞いてみて。アポはもう取ってあるから」
「さすが仕事が早いことで。よし浦、さっそく初仕事と行くか」
「は、はい!」
善は急げだ。緊張を覗かせるウラと共にリュウは支度を始めた。
ワールド・トータルス 和知田正則 @wattisan
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