御旗輪祭

Doskoy Boys

御旗輪祭


 少し先の時代、とある山間の街。

 夏の終わりを告げる涼しい風が吹く夕暮れ時

 街を見おろす小高い山の中腹から祭りの音楽が

 流れて来る。祭りが始まろうとしているのだ。


 陽が落ち会場の門となる鳥居が浄化の光を放ち始め、群れる提灯が

 それに呼応するかのように明滅する。

 飲み食いする店、遊戯に興じる店が開き、同じ面と祭りの衣装を

 纏った人々が会場に溢れた。

 その群衆の中に1人だけ、衣に紋様が描かれていない男が紛れていた。


 男が何をするでもなく辺りを歩いていると、

 会場のあちらこちらで電光看板や端末に儀式の告知が走る。

 大人も子供も、中央の儀式場に駆け出す。

 電子太鼓が鳴り響き、囃子はやし役が合図の号令を発した。


 同時に、人々の中から面の表情が書き換わる者が現れる。

 彼らは自ら、あるいは無理矢理、金字塔に似た台形の儀式機械の中程に

 設置された巨大な輪に登り、その席についた。

 人々は端末に表示された祭りの紋章を何度も押し、輪に座る者達を回す。

 やがて輪は速度を得て行き、輪から舞い落ちる者が続出した。

 落ちた者達は我を忘れ、互いに掴み合いを始める。


 あの何も描かれない衣を纏った男は、気付けば儀式の真っ只中にいた。

 それまで群衆を冷笑し愉悦ゆえつに浸っていた男の面は表示が切り替わり、野蛮な表情を掲示した。

 先ほどまでの余裕はなく、男は周囲の群衆と一緒になって、儀式機械の

 頂点で翻る旗を、この催事の誉れである御旗を得ようとして……


 混沌とした騒音の中に消えていく。そして全てが無に消えていった。



 人の去った儀式の場で、ただ1つそこに残された端末には、「system error」という文字が表示されていた。





作成:Ildy

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

御旗輪祭 Doskoy Boys @doskoyboys

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ