第3話
怒った大使は母星に帰り、侮辱を受けたことを報告した。その後色々あったが、結局この失敗を取り返すことはできず、ついに星間戦争が始まってしまった。
「なにするものぞ。迎え撃ってくれるわ」と大統領は息巻いた。
「地上から敵の宇宙船を砲撃しろ」と大統領は命じた。命を伝えるべく勇んで駆けだしていった部下は、しばらくすると青い顔で戻ってきた。
「だめです」
「何がだめなんだ」
「地上から宇宙船を砲撃するためには、レーザーをつかって照準を合わせる必要があるそうなのですが、レーザーの研究をしている物理学者がもう我が惑星にはいません」
「なに、物理学者!?」と大統領は、生まれて初めて聞いた単語のような顔をして驚いた。
「むむ、では仕方ない。こちらも最新鋭の宇宙船を出して迎撃するのだ。足りないようなら宇宙船をどんどん建造するのだ」と大統領は命じた。工学者もいなくなっていたので、この惑星の「最新鋭」は数十年前の技術だったが、それを指摘する者はいなかった。また、宇宙船をどんどん建造するだけの資源と資金はこの惑星にはなかったのだが、経済学者は絶滅していたので誰も気づかなかった。
こうして時代遅れの宇宙船で出撃したのだが、当然かなうはずもなく、最終的に首府までもが包囲され、陥落寸前の状況となった。
「何か策はないか。こういうとき、いにしえの英雄たちはどうしたのだ」と大統領は部下に尋ねた。
「は、いにしえの英雄でございますか」、部下は困った顔をして答えた。
「なにぶん、歴史学者がおりませず、その辺はよくわかりません」
砲撃の音が強くなってきた。
「うう、胃が痛い。ストレス性だろうか」
「なにぶん、医学者がおりませず」
「わずかな確率でもいい。起死回生の一手はないか」
「確率ですか。なにぶん、数学者がおりませず」
砲撃の音が止み、廊下を大勢の足音が近づいてくる。
「なんという運命だろうか。こんなことが許されるか」
「なにぶん、倫理学者がおりませず」
「もう辞世の句でも詠むか。辞世の句に季語は必要なのだろうか」
「文学者がおりませず」
そして滅亡した。
ちなみにこのとき攻めてきた種族は、水をかけると死ぬタイプのやつだったのだが、化学者や生物学者がいなかったので誰も気づかなかった。
かくして科学の惑星は みなみ まなぶ @mcnang
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