第2話
それからしばらくたったある日のこと。「大統領、今まで交流のなかった星から、大使がきております」と、部下が報告した。大統領と部下は、大使と面会することになった。
「いかん、この大使は私の知らない言語を喋っておられる」と大統領は言った。「私も、銀河標準語なら少しわかるのだが、この言語はわからないぞ」
「私も銀河標準語ならわかるのですが」、と部下は答えた。
大統領は言語に堪能な者を探した。しかし、この銀河で最も広く話されている銀河標準語を話せる者は多かったものの、マイナー言語を話せる者は、もうこの惑星にはいなかった。
「かまわん、通訳ロボがいたはずだろう」と大統領は言い、通訳ロボがつれてこられた。
かつて言語学者たちが開発した通訳ロボは、たちどころに大使の喋っている言語を判別した。「この大使は、ウピ語を喋っていると思われます」
「よし、早速ロボの設定をウピ語に変えろ」
「はっ」、部下はすみやかにロボのパネルを操作した。
「あっ、しまった。操作を間違えた。ロボの表示がすべてウピ語になってしまった」
「ウベンベ」と、ロボが言った。
「うわあ、ロボまでウピ語を喋りはじめたぞ。戻せもどせ」
「だめです。パネルの表示もすべてウピ語になってしまって読めません」
「ああ、なんか大使とロボが勝手に会話しているぞ」
「自動会話機能が作動していると思われます」
「大使が怒り出したぞ」
「なんでじゃ」
「ああっ、待ってください、大使」
こうして大使は怒って帰っていった。これは、かつて研究者がウピ語のデータベースを作成しようとしたときに予算がおりず、仕方なく手に入った古いウピ語のデータベースを使用したためであった。古ウピ語で「よろしく」を意味する「ウベンベ」は字義どおりには「一緒に出かけましょう」を意味するのだが、時代の流れとともに現代ウピ語では「表に出やがれ」を意味するようになっていたのである。
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