かくして科学の惑星は
みなみ まなぶ
第1話
ここ、大宇宙の片隅のとある惑星では、科学技術は高度に発達し、そのおかげで文明は栄華を極めていた。今日も惑星の研究者たちは、むずかしい研究に取り組んでいた。ある日、そんな研究者たちのはたらく大規模なラボに、惑星のリーダーである大統領が視察にきた。つまらなさそうな顔で視察した後、ラボを後にした大統領は、おつきの部下にきいた。
「結局、何をやっているのだ、あいつらは」
「さあ、むずかしすぎて、よくわかりませんな」と、部下は笑いながら答えた。
「あいつらは、よくわからないことをやっているくせに、金が必要だという。なかにはこの銀河でも片手で数えられるほどの惑星でしか話されていないマイナー言語だとか、何の役に立つのかわからないことを堂々とやっているやつらすらいる。あんなやつらに、金をやる必要があるのかな」
「ごもっともです」
「私は、なんだかあいつらと話していると、馬鹿にされているような気分になるのだ。むずかしい話をされて、こんなこともわからないのかと言われているような気がしてくる」
「けしからんやつらです」
「そういえば、あいつらに、私の政策にケチをつけられたこともあった。何やら小難しい理屈をこねて。私から金をもらっているくせに、私の政策にケチをつけていいのかね」
もちろん、実際には大統領が研究者にポケットマネーを払っているわけではないので、「私から金をもらっている」というのは誤りなのだが、部下もそれを訂正するでもなく答えた。
「まったく、許されませんな」
こうして大統領は、研究に予算をつけるのをやめてしまった。最初に予算が停止されたのは哲学と文学と数学だった。誰も反対しなかった。あんまり役に立たなそうに思えたからだ。哲学が衰退すると、法哲学や政治哲学も衰退した。これによって法学や政治学も衰退していった。文学が衰退したことで、言語学や歴史学が衰退した。数学が衰退したことで、経済学と物理学が衰退した。物理学が衰退したことで工学と化学が衰退した。化学が衰退すると生物学が衰退し、そして医学や薬学も衰退していった。
多くの研究者たちは今までの仕事をやめ、転職していった。なかには自費で研究を続けた研究者たちもいたが、そのうち餓死した。惑星の科学技術は進歩することをやめたが、今までの研究で生み出された成果物があったので、惑星ではなんだかんだ日常が続いていった。
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