パーティーが解散になった私は、必死で生きる術を探す。厳しい現実の中、ザマァもチートも無い。あるのはただのハッピーエンド。
リゥル(毛玉)
第1話 私が握るもの
「──何よ、アイツ。突然あんな事、本当最悪!!」
ギルドでも最近頭角を現してきた私達【オルトロス】
最近では次世代のエース候補、何て噂が立っているとか。
しかしそれは、ダンジョンに足を踏み入れる前……そう、先ほどまでの話だった──。
「ミレイ、すまないが俺は今日限りで冒険者を止めるよ。今後は町で冒険者向けに、武器やアイテムを販売する店を出すつもりなんだ」
突然の告白……。
【オルトロス】は、前衛で剣を握る私ミレイと、後衛で魔法を操る幼馴染みの彼、ジークのみ。
つまり彼の言葉は、実質パーティーの解散を意味するのだ……。
「なんでよ、なんで──そんな大事な事勝手に決めるの!」
「すまない……今更ながら命が惜しくなったんだ。冒険者は、実力が伴いさえすれば、確かに実入りの良い仕事だ。ただ末路は決まって、冒険で命を落とす……お前も分かってるだろ? ミレイ」
確かに、多くの冒険者は冒険中に生き絶える。
命を失い、死体が回収されればまだ運の良い方。
例外的に生き延びてもどこかしら怪我をし、生活に支障が出る事も多く、その後の人生もすべて自己責任。
彼が言う事を理解は出来る。しかしそんなこと──納得は出来ないわよ!
「分かったわ、勝手にすればいいじゃないの!」
「おい──待てよ。話は最後まで……!」
私はダンジョンに向かって走った。
喧嘩別れみたいになったけど、ジークなら追いかけてきてくれる──そう、信じていたから。
しかし、彼は私を追いかけては来なかったの。
ダンジョンの入口で、待てども待てども追っては来なかった……。
◇
「──うっ! やっぱり……ソロじゃ、この辺りが限界ね……」
私達冒険者は、ダンジョンから獲られる資源や倒した魔物の素材を町に持ち帰り、それを換金して生活する。
ダンジョンは深く潜れば潜るほど、資源は良質、豊富となる。
懐は潤うものの、同時に魔物は賢く、強力になって行く。
「いつもなら、こんな所で足踏みしないのに……」
二人から一人になっただけなのに、いつもの半分も結果がでない。
それがとても悔しくて……凄く情けなくて……。
魔物は屈強で、生息する場所の環境に合わせ進化している。
人間が食い物にするには、相応の力が必要だ。
それは自身の実力だったり、パーティーの存在だったり、強力な装備であったりもするのだが……。
「本当に一人っきりになっちゃった……。一度戻ってギルドに相談しましょう」
割りきらないと……ここでは生きていけない。
ギルドに行けば、パーティーの募集もしているはずよね?
探そう。このままソロでは命がいくらあっても足りないし、食べても行けないから……。
私はギルドに帰ると、早速受付に並び順番待ちをした。
情けないな……私。ジークが何処かで私を探してるのでは? っと、つい目で探してしまっている。
「──あっ」
あの後ろ姿、間違いない!
どうやら彼は、別の受付の列でギルド職員と話しているようだ。
相変わらず鈍感。ジークは、こちらに気付いていないみたいだけど。
声を掛けるにも、昼間の事もあるわね。
今は少しだけ、様子を観察しようかな……?
順番待ちで並びながらも、一歩、また一歩と前に進む。
それにしても、彼らのお話は少し長くないだろうか?
ジークを見つけてから、私は四人分ほど前に進んだ。それなのに……まだ話している。
「──っ!?」
ジークの横顔が見えた。
モヤモヤとした感情が胸を突く……。
私が見た彼は、はにかむような笑顔で女性職員と楽しそうに話していたのだ。
そして、これは偶然だろう。
彼は不意に振り返り、その視線が私と交わった。
ジークはギルド職員向け手を振り、慌てるようにその場を立ち去っていく。
「なんで、逃げるのよ……」
順番待ちで私の前が空いていたのだろう。後ろで並ぶ男が、前に進めと声を掛けた。
私は「すみません」っと、謝罪の言葉を口にし、前へと詰めた……。
「バカみたい……もうアイツの隣に、私の居場所なんて無いんじゃないの」
自分を落ち着かせるため、深呼吸で呼吸を整える。
別に、彼が居なくても何も問題ない──そう自分に言い聞かせながら。
そしてしばらくすると、私の番が回ってきた。
カウンターの椅子に腰を掛けると「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」っと、職員の女性が声を掛けてきたのだ。
「今日は新しいパーティーメンバ―を……」
「──ミレイ様、御話中大変申し訳ありません」
隣から、ジークが先ほどまで話していた職員が、自分が話をしているギルドに耳打ちをする。
するとあろう事か、目の前の女性は私に一礼をしてその場を去って行ったのだ。
「私、エルフィと申します。この度は急な担当の変更、大変申し訳ありません」
なんで、この女が……。
立ち去った女性、その代わりに席に着いたのはジークが嬉しそうに話していたエルフ美人だった。
「……どうして急に交代したのかしら?」
「彼から事情をお聞きしており、ミレイ様をよろしくとの事なので。それと今後についても、私が一番お力になれるかと思いまして」
なるほど、そう言う事ね。
それにしても彼から? 早速彼女気取りらしいわね、別にどうでもいいけど……。
「パーティーの募集でよろしかったでしょうか? 確か、ミレイ様は前衛をなされているのですね?」
「ええ、そうよ。前衛ですが、それが何?」
「いえ、ただ……」
目の前に出された、メンバー募集の用紙の束。
彼女は目の前で、それを一ページずつめくっていく──。
「現在の前衛は盾を持ち、魔物の攻撃を受け止めるのが主流です。ミレイ様ほどの冒険者でも、新しいパーティーを探すのは中々難しいですね……」
それは重々理解していた。
冒険者は基本男性ばかり、女性の割合は全体の一割を満たないのだ。
古くさい考えだと私も思う。
しかし戦場で命を預ける相手に、女性は不向きだと言う風習があるのは事実……。
それでも私は学も無く、剣を握るしか知らない──。
「別に相手の攻撃を避ければ問題ないと思うのだけど?」
「いえ、それが問題なのです。近接戦闘ならまだしも、ダンジョンに潜れば物理的な飛び道具を使う魔物もいます。その攻撃を避けられると、後方職の方にも当たる可能性が出ます。残念ながら安定性に欠けるのです……」
なによそれ、とって付けたような理由……。
確かにダンジョンには、人型の魔物も多くいる。その中には弓などを使うものもいたけど、今までジークは文句も何も言わなかった。
「じゃぁ盾を持つわ、それなら……」
「パーティーで望まれる金属製の大盾は、重量があるため体力が必要です。失礼ながら、世では女性の
「──っく!」
今まで積み上げてきた物を、全部否定された気がした。
大声で反論したい! しかしそれが出来るほど、頭が良いわけでも無く、それが意味の無いことを知っている。
「……分かったわ。また明日来るから出来る限りで探しておいて。それと一緒に、ソロでこなせそうな実入りのいい仕事を見繕っておいて。少しぐらい危険でも構わないから」
それだけ言うと、私はその場を立つ。
自分でも頭に血が昇っている事が分かった。
しかし私も長いことこの仕事をしている。
冒険者である以上、ギルド職員を敵に回しても特がない……それは良く知っている。
宿への帰り道、私は一言も声を発することは無かった。
共に話したり笑ったり、喧嘩し合う相手はもういない──私は一人になってしまったのだから……。
◇
「あぁぁーー!!」
宿に着き、ベットに飛び込むと、悔しさの余りに私は枕を顔に押し当て大声を上げた。
「悔しい……悔しい悔しい!」
どうして男は皆、あんな知的でスラッとして、出ている所は出ている美人が好きなのだろうか?
それに何で、私はそんなことに心を乱して!
「……情けないな」
幼い頃からずっと一緒だったのに、あんな簡単にジークを取られて。
私は気づくと、枕を涙で濡らしていた。
昔の事を思い出すたびに涙は溢れ、止まることを知らない。
「あぁそうか。私、アイツの事好きだったんだ。だからこんなに怒れて……」
ジークの事を鈍感と言ったが、私の方も大概じゃないか。
物心がついた頃から、隣に居るのが当たり前だったのに。
彼が居なくなるなんて、考えもしなかった……それがこんなに悲しいだなんて。
私はその後も、渇れるまで涙をながし続けた──。
「──まいったわね……もう外が明るくなってきちゃった」
ほとんど一睡もできなかった。
鏡を見ると目は赤く腫れており、充血している。
「酷い顔……」
それでも、生活に余裕があるわけじゃない。
準備を済ませ、重い足取りでギルドの受付へと向かう──。
これがダメならどうしようかな……。
そんな不安を抱えたまま、私はギルドの扉を開いた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」
寝れなかったためか、少しだけ早く来すぎてしまったようだ。
ギルドの中にはほとんど冒険者は居なく、職員達はこちらを見ると声をかけ挨拶をする。
そんな中、私は空いている席へと腰をかけた。
「おはようございます、ミレイ様ですね。今、担当の者に変わりますので」
またもや職員の交代……どうせ相手は──。
「お待ちしておりました。おはようございます、ミレイ様」
──やっぱりエルフィと名乗った職員だ。
一番会いたくない相手なのだが、背に腹は代えられない。
それにしても、ここまで来ると何かの嫌がらせにも思えてくるわね……。
「昨日の確認へ来たわ。良い返事は聞けるのかしら?」
「残念ながら、パーティー募集の方は……」
「そう……」
やっぱりそうか。
そもそも彼女が、本当にパーティーメンバーを探してくれているのかも怪しい。
「じゃぁ、依頼の方はどうなの? 流石にそちらも無いとは言わないわよね」
「御安心下さい。依頼の方は、私一押しのものがございます!」
「ずいぶんな自信ね? 分かった、見せてもらうわ」
目の前に差し出される、依頼内容が書かれている用紙。
どうせこれも、面倒事や危険な内容に決まっている。
それを手に取り、私は依頼書に目を通した──。
「──私への……指名依頼? って何よこれ……」
その内容は、想像を絶していた。
こんなの、依頼でも何でもない──依頼の名前を使った、ギルドの私的利用じゃないの。
「これは、とある男性からの依頼です。本日は、依頼主様にも来ていただいております」
エルフィがそう言葉にすると、職員が普段出入りする通路から、男性現れる。
「──ジーク!?」
なんで彼が職員通路から!?
手元の依頼用紙、彼の登場。
頭のよくない私でも分かる……これは彼らが仕組んだ事だと。
「あ~ミレイ、出来ればその依頼を受けてほしい。嫌なら強制はできないが……」
昨晩、枯れるほど流したと思ったのに。
私は何度、彼に泣かされるのだろうか?
「ミレイ、俺はお前の命が惜しい! もう危険な冒険は辞めて、これからは剣を握らず、俺の手を握っててくれないだろうか?」
「何それよ……」
依頼書に書かれていたのは、新たな職場の求人表だった。
新たに開かれる武器やアイテムのお店、そこで永久就職をしてくれと言う、熱い熱い、少し変わったラブレター。
それに目を通した私は、涙が止まらなくなる。
答えは言うまでもなく──決まっている。
「──お断りよ。私の人生は、剣と共にあるから」
「……そうか、そうだよな?」
私は涙を拭い、落ち込んだジークに近づき彼に抱きついた。
そして顔を寄せ、彼の唇を奪う。
「……だって、武器を取り扱う店で剣を握るのをやめて商売は出来ないでしょ? だからこれからは剣と貴方の手、両方を握ることにするわ」
ジークは、顔を真っ赤に染めた。
やられてばかりでは悔しく、自分なりの必死の抵抗のつもりだった。
「おめでとうございます、御二方」
職員や、偶然居合わせた冒険者から拍手が飛び交う。
言うまでもない、私達は人前で恥ずかしいやり取りをしていた訳で……。
顔から火を吹きそうになるとは、この事だろう……。
「──ミレイ様、先程までの御無礼を御許しください」
今回件を仕組んだ、もう一人の犯人が深々と頭を下げた。
私はジークの手を取り、エルフィを真っ直ぐと見つめる。
「大丈夫、気にしないで。貴女のお陰で、大切なものに気づかされたから……ありがとう、エルフィさん」
握った手に力が入る。
私はもう、この手を離さない……だって、大切なものに気付いたから。
きっと今後、彼のことで今まで以上涙することになるだろう。
だってこれからは、パーティーメンバーではなく、人生のパートナーとして彼の側に末長く側に居続けるのだから──。
パーティーが解散になった私は、必死で生きる術を探す。厳しい現実の中、ザマァもチートも無い。あるのはただのハッピーエンド。 リゥル(毛玉) @plume95
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