パーティーが解散になった私は、必死で生きる術を探す。厳しい現実の中、ザマァもチートも無い。あるのはただのハッピーエンド。

リゥル(毛玉)

第1話 私が握るもの

「──何よ、アイツ。突然あんな事、本当最悪!!」


 ギルドでも最近頭角を現してきた私達【オルトロス】

 最近では次世代のエース候補、何て噂が立っているとか。

 しかしそれは、ダンジョンに足を踏み入れる前……そう、先ほどまでの話だった──。



「ミレイ、すまないが俺は今日限りで冒険者を止めるよ。今後は町で冒険者向けに、武器やアイテムを販売する店を出すつもりなんだ」


 突然の告白……。


【オルトロス】は、前衛で剣を握る私ミレイと、後衛で魔法を操る幼馴染みの彼、ジークのみ。

 つまり彼の言葉は、実質パーティーの解散を意味するのだ……。


「なんでよ、なんで──そんな大事な事勝手に決めるの!」


「すまない……今更ながら命が惜しくなったんだ。冒険者は、実力が伴いさえすれば、確かに実入りの良い仕事だ。ただ末路は決まって、冒険で命を落とす……お前も分かってるだろ? ミレイ」


 確かに、多くの冒険者は冒険中に生き絶える。

 命を失い、死体が回収されればまだ運の良い方。


 例外的に生き延びてもどこかしら怪我をし、生活に支障が出る事も多く、その後の人生もすべて自己責任。

 彼が言う事を理解は出来る。しかしそんなこと──納得は出来ないわよ!


「分かったわ、勝手にすればいいじゃないの!」


「おい──待てよ。話は最後まで……!」


 私はダンジョンに向かって走った。

 喧嘩別れみたいになったけど、ジークなら追いかけてきてくれる──そう、信じていたから。


 しかし、彼は私を追いかけては来なかったの。

 ダンジョンの入口で、待てども待てども追っては来なかった……。

 


「──うっ! やっぱり……ソロじゃ、この辺りが限界ね……」


 私達冒険者は、ダンジョンから獲られる資源や倒した魔物の素材を町に持ち帰り、それを換金して生活する。


 ダンジョンは深く潜れば潜るほど、資源は良質、豊富となる。

 懐は潤うものの、同時に魔物は賢く、強力になって行く。


「いつもなら、こんな所で足踏みしないのに……」


 二人から一人になっただけなのに、いつもの半分も結果がでない。

 それがとても悔しくて……凄く情けなくて……。


 魔物は屈強で、生息する場所の環境に合わせ進化している。

 人間が食い物にするには、相応の力が必要だ。


 それは自身の実力だったり、パーティーの存在だったり、強力な装備であったりもするのだが……。


「本当に一人っきりになっちゃった……。一度戻ってギルドに相談しましょう」


 割りきらないと……ここでは生きていけない。

 ギルドに行けば、パーティーの募集もしているはずよね?

 探そう。このままソロでは命がいくらあっても足りないし、食べても行けないから……。



 私はギルドに帰ると、早速受付に並び順番待ちをした。


 情けないな……私。ジークが何処かで私を探してるのでは? っと、つい目で探してしまっている。


「──あっ」


 あの後ろ姿、間違いない!


 どうやら彼は、別の受付の列でギルド職員と話しているようだ。


 相変わらず鈍感。ジークは、こちらに気付いていないみたいだけど。

 声を掛けるにも、昼間の事もあるわね。

 今は少しだけ、様子を観察しようかな……?


 順番待ちで並びながらも、一歩、また一歩と前に進む。


 それにしても、彼らのお話は少し長くないだろうか?

 ジークを見つけてから、私は四人分ほど前に進んだ。それなのに……まだ話している。


「──っ!?」


 ジークの横顔が見えた。

 モヤモヤとした感情が胸を突く……。


 私が見た彼は、はにかむような笑顔で女性職員と楽しそうに話していたのだ。


 そして、これは偶然だろう。

 彼は不意に振り返り、その視線が私と交わった。

 

 ジークはギルド職員向け手を振り、慌てるようにその場を立ち去っていく。


「なんで、逃げるのよ……」


 順番待ちで私の前が空いていたのだろう。後ろで並ぶ男が、前に進めと声を掛けた。

 私は「すみません」っと、謝罪の言葉を口にし、前へと詰めた……。


「バカみたい……もうアイツの隣に、私の居場所なんて無いんじゃないの」


 自分を落ち着かせるため、深呼吸で呼吸を整える。

 

 別に、彼が居なくても何も問題ない──そう自分に言い聞かせながら。

 そしてしばらくすると、私の番が回ってきた。


 カウンターの椅子に腰を掛けると「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件で?」っと、職員の女性が声を掛けてきたのだ。


「今日は新しいパーティーメンバ―を……」


「──ミレイ様、御話中大変申し訳ありません」


 隣から、ジークが先ほどまで話していた職員が、自分が話をしているギルドに耳打ちをする。

 するとあろう事か、目の前の女性は私に一礼をしてその場を去って行ったのだ。 


「私、エルフィと申します。この度は急な担当の変更、大変申し訳ありません」


 なんで、この女が……。

 立ち去った女性、その代わりに席に着いたのはジークが嬉しそうに話していたエルフ美人だった。


「……どうして急に交代したのかしら?」


「彼から事情をお聞きしており、ミレイ様をよろしくとの事なので。それと今後についても、私が一番お力になれるかと思いまして」


 なるほど、そう言う事ね。

 それにしても彼から? 早速彼女気取りらしいわね、別にどうでもいいけど……。


「パーティーの募集でよろしかったでしょうか? 確か、ミレイ様は前衛をなされているのですね?」


「ええ、そうよ。前衛ですが、それが何?」


「いえ、ただ……」


 目の前に出された、メンバー募集の用紙の束。

 彼女は目の前で、それを一ページずつめくっていく──。


「現在の前衛は盾を持ち、魔物の攻撃を受け止めるのが主流です。ミレイ様ほどの冒険者でも、新しいパーティーを探すのは中々難しいですね……」


 それは重々理解していた。

 冒険者は基本男性ばかり、女性の割合は全体の一割を満たないのだ。

 

 古くさい考えだと私も思う。

 しかし戦場で命を預ける相手に、女性は不向きだと言う風習があるのは事実……。

 それでも私は学も無く、剣を握るしか知らない──。


「別に相手の攻撃を避ければ問題ないと思うのだけど?」


「いえ、それが問題なのです。近接戦闘ならまだしも、ダンジョンに潜れば物理的な飛び道具を使う魔物もいます。その攻撃を避けられると、後方職の方にも当たる可能性が出ます。残念ながら安定性に欠けるのです……」

 

 なによそれ、とって付けたような理由……。


 確かにダンジョンには、人型の魔物も多くいる。その中には弓などを使うものもいたけど、今までジークは文句も何も言わなかった。


「じゃぁ盾を持つわ、それなら……」


「パーティーで望まれる金属製の大盾は、重量があるため体力が必要です。失礼ながら、世では女性の壁役タンクは評価が低いのです」


「──っく!」


 今まで積み上げてきた物を、全部否定された気がした。

 大声で反論したい! しかしそれが出来るほど、頭が良いわけでも無く、それが意味の無いことを知っている。


「……分かったわ。また明日来るから出来る限りで探しておいて。それと一緒に、ソロでこなせそうな実入りのいい仕事を見繕っておいて。少しぐらい危険でも構わないから」


 それだけ言うと、私はその場を立つ。


 自分でも頭に血が昇っている事が分かった。

 しかし私も長いことこの仕事をしている。

 冒険者である以上、ギルド職員を敵に回しても特がない……それは良く知っている。


 宿への帰り道、私は一言も声を発することは無かった。


 共に話したり笑ったり、喧嘩し合う相手はもういない──私は一人になってしまったのだから……。



「あぁぁーー!!」


 宿に着き、ベットに飛び込むと、悔しさの余りに私は枕を顔に押し当て大声を上げた。


「悔しい……悔しい悔しい!」

 

 どうして男は皆、あんな知的でスラッとして、出ている所は出ている美人が好きなのだろうか?

 それに何で、私はそんなことに心を乱して!


「……情けないな」


 幼い頃からずっと一緒だったのに、あんな簡単にジークを取られて。


 私は気づくと、枕を涙で濡らしていた。

 昔の事を思い出すたびに涙は溢れ、止まることを知らない。


「あぁそうか。私、アイツの事好きだったんだ。だからこんなに怒れて……」


 ジークの事を鈍感と言ったが、私の方も大概じゃないか。

 物心がついた頃から、隣に居るのが当たり前だったのに。

 彼が居なくなるなんて、考えもしなかった……それがこんなに悲しいだなんて。


 私はその後も、渇れるまで涙をながし続けた──。



「──まいったわね……もう外が明るくなってきちゃった」


 ほとんど一睡もできなかった。

 鏡を見ると目は赤く腫れており、充血している。

 

「酷い顔……」


 それでも、生活に余裕があるわけじゃない。

 準備を済ませ、重い足取りでギルドの受付へと向かう──。


 これがダメならどうしようかな……。

 そんな不安を抱えたまま、私はギルドの扉を開いた。


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用でしょうか?」


 寝れなかったためか、少しだけ早く来すぎてしまったようだ。

 ギルドの中にはほとんど冒険者は居なく、職員達はこちらを見ると声をかけ挨拶をする。


 そんな中、私は空いている席へと腰をかけた。


「おはようございます、ミレイ様ですね。今、担当の者に変わりますので」


 またもや職員の交代……どうせ相手は──。


「お待ちしておりました。おはようございます、ミレイ様」


 ──やっぱりエルフィと名乗った職員だ。


 一番会いたくない相手なのだが、背に腹は代えられない。

 それにしても、ここまで来ると何かの嫌がらせにも思えてくるわね……。


「昨日の確認へ来たわ。良い返事は聞けるのかしら?」


「残念ながら、パーティー募集の方は……」


「そう……」


 やっぱりそうか。

 そもそも彼女が、本当にパーティーメンバーを探してくれているのかも怪しい。


「じゃぁ、依頼の方はどうなの? 流石にそちらも無いとは言わないわよね」


「御安心下さい。依頼の方は、私一押しのものがございます!」


「ずいぶんな自信ね? 分かった、見せてもらうわ」


 目の前に差し出される、依頼内容が書かれている用紙。

 どうせこれも、面倒事や危険な内容に決まっている。


 それを手に取り、私は依頼書に目を通した──。


「──私への……指名依頼? って何よこれ……」


 その内容は、想像を絶していた。

 こんなの、依頼でも何でもない──依頼の名前を使った、ギルドの私的利用じゃないの。

 

「これは、とある男性からの依頼です。本日は、依頼主様にも来ていただいております」


 エルフィがそう言葉にすると、職員が普段出入りする通路から、男性現れる。


「──ジーク!?」


 なんで彼が職員通路から!?

 

 手元の依頼用紙、彼の登場。

 頭のよくない私でも分かる……これは彼らが仕組んだ事だと。


「あ~ミレイ、出来ればその依頼を受けてほしい。嫌なら強制はできないが……」


 昨晩、枯れるほど流したと思ったのに。

 私は何度、彼に泣かされるのだろうか?


「ミレイ、俺は命が惜しい! もう危険な冒険は辞めて、これからは剣を握らず、俺の手を握っててくれないだろうか?」


「何それよ……」


 依頼書に書かれていたのは、新たな職場の求人表だった。


 新たに開かれる武器やアイテムのお店、そこで永久就職をしてくれと言う、熱い熱い、少し変わったラブレター。

 

 それに目を通した私は、涙が止まらなくなる。


 答えは言うまでもなく──決まっている。


「──お断りよ。私の人生は、剣と共にあるから」


「……そうか、そうだよな?」


 私は涙を拭い、落ち込んだジークに近づき彼に抱きついた。

 そして顔を寄せ、彼の唇を奪う。


「……だって、武器を取り扱う店で剣を握るのをやめて商売は出来ないでしょ? だからこれからは剣と貴方の手、両方を握ることにするわ」


 ジークは、顔を真っ赤に染めた。

 やられてばかりでは悔しく、自分なりの必死の抵抗のつもりだった。


「おめでとうございます、御二方」


 職員や、偶然居合わせた冒険者から拍手が飛び交う。

 言うまでもない、私達は人前で恥ずかしいやり取りをしていた訳で……。

 顔から火を吹きそうになるとは、この事だろう……。


「──ミレイ様、先程までの御無礼を御許しください」


 今回件を仕組んだ、もう一人の犯人が深々と頭を下げた。

 私はジークの手を取り、エルフィを真っ直ぐと見つめる。

 

「大丈夫、気にしないで。貴女のお陰で、大切なものに気づかされたから……ありがとう、エルフィさん」


 握った手に力が入る。

 私はもう、この手を離さない……だって、大切なものに気付いたから。


 きっと今後、彼のことで今まで以上涙することになるだろう。 

 だってこれからは、パーティーメンバーではなく、人生のパートナーとして彼の側に末長く側に居続けるのだから──。



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