追放されたサンタクロースはそれでも子供の夢を叶えるッ‼
本日は12月24日、クリスマスイブ。
子供たちにプレゼントを配るため、サンタさんたちは大忙しです。
しかし……
「サンタさん1225号! 貴様をサンタクロース界から追放するっ!」
フィンランド奥地、聖なる結界の中に存在する国際サンタクロース協会本部にて、一人のサンタさんに追放処分が下されました。
「……理由を尋ねても?」
「とぼけるなよ? 貴様が条例違反を犯そうとしているのはとうの昔に把握している」
1225号の質問に本部長は「解っているのだろう?」と重々しげに言ます。
「貴様は国際サンタクロース協会の定めた、プレゼント配送禁止区域への侵入を企んでいることは既に把握している。本部長として、これを見過ごすことはできない」
「そうは言いますが、本部長、プレゼント配送禁止区域にも子供たちはいます。その子達を差別するのは、サンタクロース界の法律、聖ニコラウス条約に違反しているのでは?」
「条約にはこう書かれている。『サンタさんはすべての“良い子”を差別することなくプレゼントを配らなければならない』
しかし、プレゼント配送禁止区域は犯罪の温床と化した言わば、“良い子”のいない地域だ。そこに、侵入を許せば、我々サンタクロースの沽券に関わるのだよ」
「ものは言いようですな。犯罪の温床と言っても戦争による貧困のせいで、食うに困った子供たちが生きるため仕方なく犯罪に手を染めなければならない紛争地域だ。それを悪い子認定して予算を削減。そう、彼らは切り捨てられた言わば、我々の業と罪の証ではありませんか」
「なんとでも、言いたまえ。それに、配送禁止区域は我々サンタさんの生命の安全を守る面もある。まあ、キミは最早サンタクロースではないのだから関係が無くなるがね」
1225号の辛辣な物言いにも一切の感情を見せず、断固譲らぬ姿勢を貫く本部長。どちらも正しく、同時に間違っているため話は平行線です。
最早時間の無駄だと見切りをつけた1225号は「今までお世話になりました」とだけ言って、退室しようとしました。
「ところで、再就職先に宛はあるのか?」
「ええ。古巣から戻ってこないかと誘われてます」
「そうか……」
何気ない本部長の質問に、振り向かずに淡々と返す1225号は退室。
背中を見送った本部長は、葉巻に火をつけ煙を吹かします。
そして、おもむろに内線電話をかけ始めました。
「ああ、私だ。実は折り入って相談があるんだが……」
PM9:00、1225号の自宅にて。
「別についてこなくても、いいんだぞ? なんせ死にに行くようなものだからな」
「なにを今さら」
「我々はサンタクロース協会に所属してますが、それ以前にあなたに忠誠を誓った身」
「死ぬ時は一緒です!」
「……勝手にしろ」
年期の入ったソリをひっぱりだした1225号。
近くには、これから死地を共にするトナカイたち。
口では憎まれ口を叩きながら心の中では深く感謝してます。
「では行くぞ。急がないと間に合わなくなるからな」
真っ当なサンタさんは既に出発し、担当区域に到達している時間。
自分も急がなくてはなるまいと1225号はソリを乗り込み、飛び立ちました。
さあ、クリスマスのはじまりです。
『第三小隊より司令部! 謎の非行物体が我が国の航空領域に侵入、直ちに警告しうわあああああ!?』
『こちら本部、どうした!? 応答しろっ!!』
『くそっ!! なんだあいつ!?
売ってきやがった!!」
『敵影を確認……!? バカな!? あれは……!?』
「HOHOHO! メリークリスマアアアアアス!!」
1225号の咆哮と同時にソリに備え付けられたミサイルが発射。
「良い子のみんなにプレゼントだよぉ!!」
ほぼ同時にトナカイたちの装備であるガトリング銃が火を吹きました。
『サンタクロースです!! 敵はサンタクロースですっ!!』
半ば悲鳴のような報告を最後に第三部隊の反応はロストしました。
「これより市街地に突入する!! 総員、地上戦の準備を!!」
「イエッサー!!」
予め放ったドローンや監視カメラをハッキングして得た市街地の情報を脳内で反芻し、1225号は恵まれない子供たちの下に向かいます。
『ぐわあああああ!?』
『隊長おおおおお!!』
『おのれぇ! よくも隊長を!!』
……ちなみにあくまで、サンタさんは子供たちへプレゼントを配るのが仕事。
そのためにはどのような障害があろうと、相手にどのような理由があろうと容赦なく排除し、配送を完了する鉄の意志が求められます。
故に、兵隊さんたちには慈悲は与えられません。
いやなら最初から戦争なんかしなければいいのです。
『くっ、お前たち、無事か!?』
『た、隊長!! ご無事だったのですね!?』
『ああ、かろうじてな。どうやら他の部隊も、怪我人こそ、いれど死者はいないようだ』
『な!? そんなことが……!?』
『……全部隊に告げろ。余計な損害を出したくなければ、深追いするな。どうやら、向こうも余計な犠牲を払いたくないようだ』
しかし、それはそれとして、なるべくなら死人は出したくないのが人の性なので、最大限、努力はしてます。
一応サンタさんは夢と希望を与える存在。イメージというものがあるのですから。
そんなこんなで1225号は圧倒的な実力で、難なく敵兵の妨害を切り抜けながら、子供たちにプレゼントを配っていきます。
「はい、メリークリスマス。サンタさんからのプレゼントだよ」
「わあ! サンタさん、ありがとう!」
「僕、この間、お腹が空いてパンを盗んじゃったんだ。だからサンタさんは来てくれないとばかり思ってた……」
「確かに盗みは悪いことだ。しかし、本当に悪いのは
貧困を強いる世界の方だ。いつか、大人になって罪を償いなさい。それまで、なにがなんでも生き延びなさい」
「あ、ありがとう!」
順調にプレゼントを配る1225号。
しかし、世の中、良い子ばかりではありません。
「へへ、サンタさんよぉ、恵まれない俺たちにもプレゼントをくれよお」
1225号の行く手を阻むように、半グレ染みた集団が襲いかかってきました。
彼らは拳銃や釘バット、割れた瓶や鉄パイプを振りかざし、襲いかかってきました。
「聖ニコラウス流サンタクロース術奥義・聖夜老人閉鎖領域封印|〈サンタクロウズ〉!!」
『ぎゃあああああ!!』
「良い子になるまで反省しとれ!!」
でも大丈夫。
聖ニコラウス流封印術により、半グレどもは見事、袋に吸い込まれ、封印されました。
サンタさんは聖なる存在。故に悪い子の扱いもお手のものです。
こうして漸く国中の子供たちにプレゼントを配り終えました。
これにて、一件落着。
……と思いきや。
「さて、最後のプレゼントを配りに行くか」
そう言って、1225号はソリに搭載していた銃器を装備。この国の大統領府へ歩みを進めます。
最後のプレゼント。それは、この国を支配する独裁者を大統領の座から引きずり下ろす(物理的に)ことで手にはいる平和でした。
「さあ、聖夜はこれからだ」
1225号は封印していた歴戦の猛者としての側面を解放し、一足早い大掃除を始めました。
どす黒い闘氣|〈オーラ〉を纏いしその姿は、黒きサンターーブラックサンタクロースそのものでした。
そう。1225号の正体は悪い子を地獄に連れていく、サンタクロース界の伝説的存在黒サンタだったのです。
こわいですね。
「今行くぞ! 悪しき独裁者め!!」
そう言って、1225号は最後の戦いに挑むのでした。
「お前たちは遊撃を頼む! くれぐれも一般市民には危害が及ばぬように!!」
「ぬかりはありません!!」
「それでこそだ!!」
トナカイたちと分かれ、1225号は独裁者の下へ急ぎます。
その行く手を阻むのは、私設部隊。
重武装した彼らはマシンガンを構え、1225号を蜂の巣にしようと待ち構えてました。
「撃てえええええ!!」
指揮官の号令の下、一斉掃射が開始されます。
しかし、そこはサンタさん。
この程度の攻撃、なんともありません。
「遅い!!」
残像が残るほどの速度で縦横無尽に移動し、弾丸を避けていきます。
サンタさんは煙突から家屋に侵入するため、狭い通路での戦闘に長けているのです。
また、夜間の間に配送を行わなければならないため、すばやい動きも求められるのです。
「はあ!」
『ぐわあああああ!!』
1225号により瞬く間に制圧される私設部隊。
さながら無双ゲーのような光景です。
しかし、彼らもやられてばかりではいられません。
「ならば、対戦車砲だ!! 撃てい!」
『ファイヤー!!』
仲間が巻き込まれることも恐れず、一斉に発射。
辺りは業火に包まれます。
「やったか!?」
隊員の一人がつぶやきました。フラグです。そう言ってやられたためしがありません。
その証拠に、1225号は燃え盛る炎の中から悠然と現れました。
サンタさんは煙突を通り暖炉から家の中に、多くの警備をくぐり抜けます。故に耐熱性・対衝撃性にも優れてる超特殊合金・サンタニウムで製造された聖夜老人聖衣|〈サンタクロス〉の着用が義務づけられているのです。
「理論上一兆度の炎にも耐えられる!!」とされるので、
対戦車砲弾などものともしません。
「子供の未来を奪う悪い子め! 貴様らに大人になる資格はねえ!!」
「ぎゃあああああ!!」
私設部隊の隊長にアイアンクローを極め、1225号は独裁者を追い詰めます。
「お、おのれ、サンタさんめえええええ!!」
独裁者はガタガタブルブル震えていました。
なんならほんのり部屋の中にアンモニア臭いです。
明らかに漏らしてます。
1225号はあまりの矮小さにため息を吐きました。
どこの世界も独裁者とは権力から離せばこんなものかもしれません。
「さあ、裁きの時間だ」
最早視界に入れるのも不快。
そんな感じで、トドメを刺そうとしたその時でした。
「滅理威狂死魔襲!!」
「!?」
突如、何者かが1225号に襲いかかりました。
間一髪、ガードは間に合ったものの、余波で周辺が吹き飛びました。
「……なるほど、どおりでこの程度の人間が一国を支配できたわけだ。こいつらを雇っていたのだな!! 反|〈アンチ〉クリスマス主義者どもを!?」
みれば、そこには血走った眼でこちらを見据え、うなりごえをあげる、複数の生物がおりました。
反クリスマス主義者。
サンタクロース界に古くから伝わる、古代サンタ文明にも記される、世界を崩壊に導いた暗黒生命体です。
クリスマスなのに、恋人もおらず、ただ一人仕事に追われる日々を過ごした、現代で言うところのブラック企業の社畜たちが、孤独感、不安感、無力感により、脳が破壊された末に変化した悲しきバーサーカー。
それが反クリスマス主義者です。
現代では闇社会で傭兵やテロリストにより生体兵器として売りさばかれている彼らは、クリスマスが近づくにつれて、狂暴性が増幅する厄介な生体をもってます。
「かっかっか!! 万が一を考え武器商人や人身売買組織・闇転売屋から、買い占めておいてよっかったわい!! さあ! 貴様ら! その薄汚いサンタさんを血まみれにしてしまえ!!」
「殺!!」
「!?」
なお、クリスマス当日の反クリスマス主義者は、狂暴性が最大限に高まっているので、近づいてはなりません。
でないと、今の独裁者のように、頭などをグシャっとされます。
よいこは真似しないように。
『きしゃあああああ!!』
「いかん!!」
命令を下す存在がいなくなったことで解放された反クリスマス主義者たちは、本能の赴くまま、暴れ始めます。
一体で一国を滅ぼすとまでされている彼らを逃がせば、世界は滅亡の危機にさらされてしまいます。
なんとかしなければ。
その時、奇跡が起きました。
『HOHOHO! メリー・クリスマス!!』
「!! まさか!!」
頭上からお馴染みの声がしたと思えば、そこにはたくさんの(重武装した)サンタさんが!
「本部長からの容貌で増援に駆けつけた! 助太刀いたす!!」
「たまたま独裁者が倒れたことで、この地域はプレゼント配送禁止地域から外れたからな!! 思う存分暴れられるぞ!!」
「かたじけない!!」
なんと本部長は、このことを見越して、援軍を要請していたのです。
「みんな!! クリスマスを守るぞおおお!!」
『うおおおおお!!』
1225号の号令に従い、反クリマス主義者たちに向かって、サンタさん軍団は突撃を開始。
『聖夜超合体!!』
手を上空にかざし、叫ぶと同時に、大量のソリが飛来。さらに、空中で変型したと思うと、パワードスーツとなって、サンタさんたちに装備されます。
サンタニウム合金製の最新型聖夜老人聖衣・サンタリオンの誕生です。
『メルイイイイイ・クリイイイイスマあああああス!!』
新たなる力を見に宿し、世界の平和を守るため、決戦の火蓋が切って落とされました。
……そして。
「まったく、やってくれたな。1225号。貴様のせいで上層部に怒られてしまったではないか」
数日後。
聖ニコラウスサンタクロース総合病院にて。
松葉づえをついた1225号と本部長は、退院手続きを済ませ、病院から出てきました。
あの日、一つの独裁国家が消滅しました。
後に国連の支援を受けながら、復興を果たすその国の子供たちは、「サンタさんが助けてくれたんだ」と口を揃えて言い、後に「クリスマスの奇跡」と呼ばれる伝説が刻まれました。
「さて、改めて、サンタさん1225号。貴様を追放する!! もう、この業界に復帰することはできないと思え!!」
「ああ……そうだな……」
1225号は本部長から正式に追放処分をくだされ、サンタクロース資格を剥奪されました。
これが責任を取ると言うことです。
1225号は本部長と分かれ、病院をあとにしました。
サンタクロースこそが生き甲斐だった彼は、この先苦難が待ち受けているでしょう。
しかし、希望を捨てることはないでしょう。
その証拠に新たな戦場へと向かう彼をたくさんのサンタさんが見送りに集まりました。
彼らは1225号に敬礼し、称えます。
子供たちの未来のために戦った一人の漢|〈サンタクロース〉の姿を。
そして1225号もまた、これからも戦場に立ち続ける仲間たちに想いを託し、敬礼します。
このように、サンタさんの人知れない努力により、クリスマスの夜は守られるのでした。
◆CAST◆
SANTASAN 1225GO
HONBUCYO
TONAKAITACHI
DOKUSAISYA
ANCHI KURISUMASUSYUGISYA
andMore
FIN
※「おい、スタッフロール染みた登場人物欄、英語表記と見せかけて9割9分9厘ローマ字表記やぞ」と気づいてツッコミを入れてくれた方、そのセンスを大事にしてください(笑)
追放されし者たちの話 @Jbomadao
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