第6話
丘の上で、朝日を浴びた後、僕たちは、それぞれの家に帰り、少し眠ると、もういちど、僕は、いちから看板の製作を始めた。
約束の日まで、6日間。作業時間は、5日間だ。僕は、この間、部屋から出るときは、食事か、トイレだけだった。
もちろん学校もサボった。ポス倫のふたりが、学校に事情を説明しに行ってくれたらしい。事情を知った友人たちは、応援のメールをくれたが、返事は出来なかった。
この5日間、僕の中には、頼子のくちびるの感覚だけが、時々ふっと浮かび上がった。
そして、勝敗を決める当日が来た。
高宮洋介の作品は、とても素晴らしかった。さすがに、この世界の第一人者だけの事はある。
構成は、僕が、初めに作っていたものと変わらず、旅館の時間帯の動画だった。
しかし、レベルは、全く違った。
わざと季節を感じさせる物を作らず、キノナツミの姿だけで、季節感を作り出した。
衝撃的だったのは、キノナツミが、和装だったということだ。
ほとんどの街の人たちは、完全に魂を抜かれた様に見入っていた。
夏の浴衣、深まる秋の道行、派手な水着より、衝撃が大きかったようだ。
最後の旅館のロビーでコーヒーを飲むキノナツミの姿で、終わる。
改めてキノナツミの圧倒的な存在感を思い知らされた。その余韻の中、僕の看板を発表する事になった。
僕の物には、ほとんど旅館が出てこなかった。丘から見下ろしたこの街の小川、知らなければ通り過ぎてしまうような小さな古墳。
小学校にある大きな杉の木。
そして街並みと、生活している人々の笑顔。
全てのシーンをコトノミフネ越しに、作った。
もちろんコトノミフネも全て僕が作ったものだ。
「街に会いに来て」
最後は、旅館の映像とミフネの語りかけで、終わる。
ポス倫のふたりが、審査結果を発表した。
僕の看板が、採用される事に決まった。
「いや、参ったよ」
笑いながら、高宮洋介が、僕に話しかけてきた。
「君が、ああいう映像をぶつけてくるだろうとは、予測していたが、それでも何とか勝てると思っていたが…」
僕の隣にいた頼子をチラッとみると、
「さすがに、君の映像のレベルが高すぎたね。特にコトノミフネへの愛には、脱帽だ。若いとは、良いことだね。君の愛の勝利だ」
隣にいた頼子に向かって、
「君は、陸くんの幸運の女神らしい。君が、いる限り、陸くんは、どこにいても頑張れるさ。離れるんじゃないよ」
頼子にウインクをすると、去って行った。
僕の隣では、頼子が顔を赤くしてうつむいていた。
上代さんと大橋さんが、やって来て、握手を求められた。
「君の看板は、素晴らしかった。今日の出来なら、どんな相手も勝てなかったろう。将来、東京に出ることになったら、連絡しなさい。いろいろと相談に乗るよ」
僕の看板クリエイターとしての人生は、ここから始まった。
ポスターガール @ramia294
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