No.85432198 ブログ より
「‥‥続きは?」
「ありません。おそらくこの後飲まれたのではないかと」
「ハトツイーで投稿してるね。予め書いた文書を、電波が回復すると自動で指定のメディアに投稿してくれるサービスだ。辺境に旅行に行くとき重宝するやつ」
「つまりあの中でも端末は動くと。しかも電波も届く」
「内部に有機物にだけ作用する術式があるのかもしれません。この方の証言どおり、魔法自体がそもそも電子機器と相性が悪いのでしょう」
「ちょっと似たような話探してくるね」
「オレはハトツイーの管理者と連絡を取ってみる。飲まれた人物が特定出来るかもしれん」
「失踪者リストとも照合してみます」
バタバタとせわしなく働く学者たちを横目に、情報を持ってきた男はモニターを睨んだ。
そこにはまるでアニメから飛び出してきたかのようなゆるキャラが、幸せそうに眠っている。
もちろんこんな生き物が実際にいるわけではなく、これはリアルタイムで極端にデフォルメされた加工映像だ。
本物は目視出来ない。精神に異常をきたしてしまうからだ。これに気づくまでに多くの人材を失った。
「しっかし投稿日が三ヶ月前かぁ‥‥その間何を食べてあんなに大きくなったんだろ」
一人の学者のボヤキが聞こえてくる。ゆるキャラは月とほぼ同じぐらいの大きさがある。一週間前、人々がこれを観測した時は、すでにこのサイズになっていた。
「やはり星を食べていたのでしょうか。ブログ主の言う星からアレの移動予測をすると、天体消失現象と方向は一致しますが‥‥」
「確定だろうな。とんでもねえバケモノだ」
「とりあえずアレが眠ってる間に出来るだけ解析を進めよう」
男は動かない。
目線はモニターを向いたままだが、ソレはゆるキャラを見ていない。
最初の異変を観測したのは1ヶ月ほど前、辺境の交通課だった。
地上の道路と違い、宇宙空間での"道"はつねに変化する。スペースデブリやの彗星の軌道、恒星のフレア等々。
それらを記録・分析し、いち早く安全なルート情報を発信するのも交通課の仕事だ。辺境の地でもそれは変わらない。
ただの計器の故障だろうと思われたそれに疑問を持ったのは、そこのベテラン職員だそうだ。
彼は学生時代に習得した計算方法(今では効率が悪いと採用されていない)で再計算し、とんでもない答えに辿り着く。
──衛星が消失したことによる惑星軌道のズレ。
未確認現象の前触れかもしれないと考えた彼は、もっと精密な分析のできる設備で調べてほしいと、上部にデータを送った。
そしてそれが正しいものだと証明される頃には、事態は深刻なステージへと突入していた。
天体消失現象。
衛生から惑星へ。小さなものから大きなものへ。次々と天体が消失したのだ。
それはまるで生き物が食い散らかしながら移動するように、不規則なリズムと軌道で、無差別に起こった。
人がいた星も消えている。救援信号などは一切なかった。
当たり前だ。事前に計器やデータを解析したとしても、最終的には目視が基本だ。モニター一面に映し出されたアレを見た職員は、一人残らず正気を失ってしまったのだろう。助けを呼べるはずがない。
そして一週間前、次に消失する可能性のある惑星へと向かった国連の軍が、アレと遭遇する。
結果は想像の通り。
男は数人の学者と共に、過去のデータや類似事件の捜査にあたっていた。先程のブログは、その中のひとつ。
‥‥もし、あのブログ主の記事をそのまま鵜呑みにするなら、あのバケモノは魔法科学で生み出されたものということになる。
魔法が星の成分に依存する以上、魔法科学も星を離れては使えない。
しかし、もし、バケモノが、最初に自分の星を飲み込んでいたら。
そして何らかの方法で星の成分を維持し、活動しているとしたら‥‥
三ヶ月前から。
三ヶ月前というと、男は甥っ子の誕生日プレゼントを探してあちこち走り回っていた時期だ。たった三ヶ月前。遠い昔のように思える。
男はそっと目を伏せ、その後持ち場に戻った。
了
No.85432198 ブログ より 塔 @soundfish
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