「なぜ印が出ないのだ!!」

「わ、わかりません!」

 蝋燭の明かりが揺らめく薄暗い室内。苛立ちで怒鳴れば、部屋中に響き渡った。周りにいる部下たちは体を震わせる。

 革靴を大きく踏み鳴らし、目の前にある寝台を覗き込んだ。その寝台にはまだ頭髪も生えていない赤子が眠っている。その腹には赤い雫が足らされていた。それ以外は何の跡もない滑らかな肌である。

 その様子を確認して舌打ちをする。それにも部下たちは体を強張らせた。じろりと周りをねめつける。

「自分で考えて動く脳も持っていないのか!」

「すみません……!」

 今一度怒鳴ると、蜘蛛の子を散らすように部下たちは消えていく。近くに残ったのはガタイのいい一人の部下だけだ。

 部下が消える様子を見届けてから深く息を吐く。冷や水のような思考が脳に戻ってくる。

「受け継がれていない可能性は」

「限りなく低いかと」

「そうであろうな」

 言葉に頷き、顎に指を添える。頭を素早く回転させ、次々原因と思われるものを挙げ、消去していく。砂の山の中から、一つ光るものを見つけ出す。

「あれか……」

 部下に目配せをする。すぐさま彼は跪いた。

「やることはわかっているな」

「無論です」

「抜かりなくやれ」

「御意」

 頭を垂れた部下を見て身を翻す。革靴で高い音を立て、部屋から出ていく。寝台の赤子が泣きだしても見向きもしなかった。

「……渡さんぞ」

 ただでさえ低い声をさらに低めて、喉の奥から声を絞り出した。

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宇宙街 燦々東里 @iriacvc64

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