千年記録と焚書追憶 -歴史を紐解く少女と真実を暴く偽悪魔の物語-
Yura。
序章 恐ろしい世界から始まる物語
――1番古い記憶は、暗闇であった。
泣きじゃくっていたのは、親に「いらない」と罵倒され捨てられたからなのか、1人真っ暗闇に迷い込んでしまったからなのか。もうそれは分からない。
視界は一面黒。それ以外何もない。見下ろすと、そこもやはり黒でしかなく、自分が真っ黒い床の上に立っているのか浮いているのか分からなくなる。
1つだけ不思議だったのは、自分の手や足はしっかりと見えることだった。まるで自分の体が光っているかのように、はっきりと視認できる。
おとうさん、おかあさん、ここどこ、と泣きじゃくる声以外は、静寂すらも無というほどに音がない。どこへ行けばいいか分からないままに足をよろよろと進める。
――そこに、もう1つの不思議が舞い降りた。
ふわりと、視界を白い何かがかすめていったのだ。ずっと黒しかなかった世界に正反対の色が降り立ち、涙がぴたりと止まった。彷徨い歩く足も。
それは花びらに見えた。大人の手の平ほどもある大きな白い花びらが、上から、次々と舞い降りてくる。
一体何が起きているんだろう、と真上を見上げてみても、ただ黒が広がるだけ。そこから小さな無数の花びらが、ひらひらと、ゆっくり、下りてくる。それは近付くにつれ大きな花びらになり、真っ黒い地面と思しき足元で音もなく止まった。
雪のように、降り積もっていく。
ふと顔のすぐ前を花びらが滑り落ち、思わず両手で受け止めた。自分の両手の平をお皿にしても尚、花びらの方が大きい。
花びらだと思っていたそれは、こうして手にしてまじまじと見つめてみると、花びらではなさそうに見えた。天使の羽ではないだろうか、と真剣に思ってみたりもする。
だが、天使の羽にしては、それは純白ではなかった。漆黒の中にふいに舞い降りたから真っ白に見えていたのだが、じっと覗き込むと煤けた色をしていた。うっすら黄ばんだような。
だが、汚い色とも思わなかった。むしろ温かみのある色で、純白よりも好きだとさえ思えた。
花びらではなさそう。でももしかしたら、こんな花びらもあるのかもしれない。
触って確認したかったが、それも躊躇われた。花びらのような羽のようなそれは、指と指で摘んだら簡単に崩れ落ちそうに見えたのだ。
どうしたものかと途方に暮れていたその時、ギギッという軋んだ音が耳に飛び込んできた。これはもしや――ドアを開けようとしている音?
そしてその希望はその通りとなった。
錆びれた重たいドアがゆっくりと開かれ、フランチェスカは恐ろしい世界から救い出された。
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