第5話「Hush, Little Baby」05

 自分の端末から、着信音が鳴る音で我に帰った。

「ウィリアムズだ」

 応答すると、電話口の相手は『例のファイル、読んだか?』と言った。クロードだ。彼はゾラとハロルドの関係者について知っているごく少数のうちの一人だ。

「ああ、読んだ。少女がゾラと同じ経歴の可能性がある。少女の首の後ろに管があったんだろ?」

『ああ。性犯罪捜査の連中は、それがひどい虐待だと言って居たが』

「この少女は、この国の子供なのか?」

『国籍はある。出生証明証も確認した。典型的なハーレムのティーンだ。母親は薬に溺れて、兄はギャングに入った。弟は障害を持ってる。保護局の目を逃れて、ハーレムの公共団地にで暮らして居た』

「児童保護局はどんな対応を?」

『手順通りの対応をしたって言うが、ありゃあどこからか圧力があったな』

「児童保護局が?」

 彼らに圧力を掛けられる組織は限られている。この国未来を担う子供たちを守っているという自負がある彼らは、薄給でもよく働く。賄賂も受け取らず、己の利益のために動くことは少ない。それは、14年前に「宇宙くじら」がこの国に降って来たときに、まっ先に問題になったのは子供たちの居住環境だったからだ。それ以来、児童保護局は国のどの機関からも独立した、子供たちだけに手を差し伸べる機関になったはずだ。

『児童保護局は強固だ。ほとんど干渉を許さない』

「手を出せるとしたら、EFBIくらいか」

『その可能性が高い。ファイルも閲覧範囲が、限定されているしな』

 息を吐きながら、ハロルドは額を揉んだ。息を吐きながら、クロードの話を脳内で纏めた。

 ──首の後ろの管は、1年やそこらでつけられたものではない。

「少女は、15歳か」

『ああ、宇宙くじら来訪の年だ』

 今でこそ、人類の恩恵だったと学者たちは語るが、当初は地球外生命体への迫害と不理解に全世界規模で混乱が起きた。宇宙くじらの所為で正体不明の細菌がばら撒かれたと体調不良を訴える人々も居た。後にそれが、集団ヒステリーの類であると断定されたが。

 15年前に起こったことを思い出して、ハロルドは姉を思い出す。軍人だった彼女が、軍の作戦だと長い間帰って来なかった。そして、帰ってくるとまたいつもの明るい顔を見せてくれた。

『ハル?』

「あ、ああ。すまない。宇宙くじらの年、2020年は色々あったからな」

『宇宙くじらと少女がなんらかの関係があるからこそ、EFBIは動いているんじゃないかと思う』

 通常、一人の少女の殺人にEFBIほどの組織が執着することはない。必ず関連があるはずだが、それを一介の刑事や検察官が関わるべき事件ではない。

「クロード、分かった。調べてみるよ」

『頼む』

 電話を切って、息を吐いた。EFBIの知り合いにツテがあるが、あまりこちらから連絡したい相手ではなかったからだ。それでも、息を吐いて携帯端末から彼女へメッセージを残した。

『ローズ、俺だ。クロウだ。君に聞きたい件がある』

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揺籃のトロイメライ 真瀬真行 @masayuki3312

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