第5話
次に気付いた時には、全てが終わっていた。
まず、目覚めた場所が変わっていた。
顔見知りの医者のいる病院に転院し、完璧な治療が施されていた。
「と言っても、あちらの病院で、大概の治療を行ってくれていたので、こちらでやっているのは、その継続だけだが」
担当医となってくれた医者が、そんな事を説明してくれた。
金田健一の叔父と紹介された医師は、和泉が眠っている間に起きた事件の治まりを、詳しく話してくれた。
「君を撃った犯人は、捕まったよ」
和泉が再び意識を失ったあの夜、篠原家でけったいな悲鳴を上げた男の部屋で、何事かと集まった家人は全員が見た。
その男の寝台の上に、枕と共に並べられた、血糊付きのクッションを。
「それを調べたら、君の血液と硝煙反応が出た。あの男が、君を撃ったと言う証拠だな」
「……」
「どうやら、君に妙な感情があったらしい。大変な思いをしたな」
肩を攫まれた時の感触が、今になって思い出され、和泉は身震いしてしまった。
あの時、あのまま捕まっていたら、どうなっていたのか。
入院中、事件の情報は見舞いに来る友人たちが、運んでくれた。
「直さんって言う、古谷の元お弟子さんがいるんだけど……」
凪が見舞い品の林檎にかぶりつきながら、説明した。
「多分その人ね、いっちゃんを、あの変態さんから助けてくれたのは」
「……また、古谷かよ。どんだけ借りが出来てんだ、オレは」
「これから返せばいいだろ。どちらにせよ、お前がでかい罪を負う訳じゃないんだ。後ろめたい借りでもない」
それはそうだが、気負っていた分の無駄骨感は、その借りすら苦痛だ。
あれから、志門は全く顔を見せない。
興奮して、言ってはいけない事を言った事も自覚していたから、礼よりもまずは詫びたいと思っているのだが、それは始業日を待つしかない様だ。
「……お前らにも、すまない事をしたな」
一人部屋の病室内で、二人が思い思いに過ごす様子を眺めながら、和泉は呟いた。
「本当よ。何で色々と誤魔化してまで、あんな騒動を起こすのよ」
「珍しい部屋の片づけは、身辺整理だったんだな?」
和泉の座るベットの脇で、丸椅子に座った晴彦が、天井を仰いだ。
「何であの時、気づかないのか。色眼鏡ってのは、相当色ついてるんだなあ」
しみじみとした少年の言葉に、もう一人の少年もしみじみと同調した。
「思えば、あり得ないわよね。いっちゃんは、極度のマザコンだもの」
家の方は、退院するまでに色々と片がつきそうだと、藤田夫妻が報告して来た。
「社長は、その辺りのいざこざの解決で忙しいから、暫くは顔を出せないわ。気を落とさないでね」
親戚たちの埃の元を、全て暴露して一掃するのには成功したが、裸一貫で放り出す訳にもいかないのが、この時代の辛い所だ。
手切れ金を多少は渡し、弁護士を介して書面を作成し、縁を切ることになるのだと言う。
「傷害で捕まっている例の奴の方は、別な形での処置になるでしょうけど、もうあなたとは会う事はない筈よ」
「あいつ、犯行を自供してるんですか?」
そんなはずはないと尋ねると、夏生は満面の笑顔で答えた。
「概ね、犯行を認めてるそうよ」
「え……」
「いえね、確かに、篠原家には行けない状況でも、あれなら誰も文句はないわよね」
直が捕まえた男は、その場で逮捕となったが、拘束されてすぐに連れて行った先は、警察ではなかった。
古谷の所有する山の入り口で、その若者は市原葵と共に、待ち構えていた。
直と共にいた高野信之は、葵と目を交わして頷き合う。
セイは、ようやく戻れた直に労いの言葉を投げ、新年の宴会に突入している場に送り出した。
その上で、拘束された男を見下ろす。
「本当だ。妖怪じゃないな」
「そう? じゃあ、今迄、所在が曖昧だったのは、私を警戒してたから?」
「そうみたいだ。隠しきれてなかったから、曖昧になってたんだろ」
夏生は空を仰いだ。
「うっそ。この数年、私も斎も、無駄に警戒してたって事?」
「その警戒を逆手に取って、斎を罠にかけたんだろうな。その点は、大したものだ」
昔からまれに、人間の中に産まれる、妙な存在がいる。
欲を抑えきれず、それを得る為だけに知恵をつけ、巧みな力も身に付ける存在だ。
大概は成長の過程でその要素は消えていくのだが、最近は成長し犯罪と言う形でその欲を謳歌する者が、増えて来た。
まあ、こんな人間に緩い世代で成長したそれらは、妖怪の類の夏生からすると、しょぼい生き物、なのだが。
だからこそ、警戒していたこの男を、逆に力を抑えた妖怪と、勘違いする状態になってしまったと見られる。
嘆く夏生の前で、セイは膝をついて男の顔を覗きこんだ。
何故か抵抗なく顔を俯かせていた男が、若者の顔を見て目を見張り、うっとりと見つめる。
その顔に笑いかけ、セイは問いかけた。
「どうやって、斎に、自動車の運転をするように、持って行ったんだ?」
二人目の子を宿した斎は、安定期に入りはしたものの、過度な動きはしないように心掛けていた。
というのも、和泉を身ごもった時、余りに動きすぎて、流産しかけた過去があったからだ。
そんな斎が、自動車で出かけたと聞いた時、その時点で不思議に思った。
自動車に乗るとしても、最善の注意を払い、滅多に乗らない物は、点検してから乗るはずなのに、その日はそれすらもしなかった。
若者の笑顔につられて笑い返した男は、周囲の男が顔を引き攣らせているのに気づく様子もなく、答えた。
「あの女、和泉を捕まえたと言ったら、すぐに反応した。馬鹿な奴だよな。山道の多い小屋に、閉じ込めたと言ってやったら、残っていた自家用車で出てくると思ったら、案の定だった。やはり、女は女だな。取り乱したら、どんな奴でもちょろい」
あ、これは、殺してもいい奴だ。
夏生は、瞬時に判断して、手を振りかざしたが、それより先に、膝をついたままのセイが動いた。
笑ったままの若者が、そっと男の顔に手を伸ばす。
引き寄せられるように、顔を寄せた男の耳元で、セイは無感情に囁いた。
「それ、二度と、声に出すな。二度と、な」
男の顔が、恐怖でひきつった。
その顔を見返したまま、セイの顔は変わらず笑顔だったが、目は無感情だった。
「いいな? その上で、これから問われる罪は、全て認めろ」
「は、は、はい……」
その目に魅入られた男は、目を合わせたまま頷き続けていた。
老獪の狐が舌を巻く、見事な手際だ。
知らぬうちに和泉が、囮として使われていたとは、流石に教えられない。
夏生も真治もその辺りの話は短縮して、事情を話していた。
「素直に、犯行を自供しているそうよ。最近では、篠原夫人の事も」
「そ、そうなんですか」
和泉が自作自演した件は、藤田夫妻と篠原氏も承知していたが、それをあえて言及する気はない。
事が収まった今、和泉本人が一番、後ろめたく思っているのは明白で、若気の至りと生暖かく見守ると、話し合いの後に決めたのだ。
篠原和泉が、古谷志門と再び顔を合わせたのは、始業式の後だった。
放課後、同級生と後輩たちの計らいで、二人きりで帰宅することになったのだ。
「さあさあ、後は、若い二人だけで、積もる話でもしてください」
金田健一が切り出し、市原凪も無言で同意し、立ち尽くす二人を置いて先に歩き出す。
「……見合いと、勘違いしてんのか?」
男同士で、その言い分は変だろうと呟く和泉に同意し、志門も呟いた。
「向こうの方が、年齢は若い筈なのですが」
凪や高野晴彦は同年だが、健一や速瀬伸、岩切静に至っては後輩だ。
というより、どうしてこういう事態になったのか、志門は首を傾げるしかない。
だが、和泉の方には、心当たりがあるらしい。
「……昨夜、家に石川一門が、訪問したんだよ」
短い答えに、少年は首を傾げてから思い当たった。
「ああ、そうなのですか。いつもはぎりぎりまで古谷にいて下さるのに、どうしたのかと思っておりました」
石川一門……。
別に、名のある荒くれ者の集団ではない。
だが、昨夜の彼らは、そう称されても不思議ではない気配で訪れた。
戦国自体より続く武家でありながら術に長け、代々の当主は数多くの式神を有していると言われている。
すでに武家の名残はないが、その世界で名を遺す理由は、この家で使役されている式神に、架空のはずの生き物が含まれているからだ。
使役されている妖怪たちが、代々の主の命に従順し続けているのは、その生き物の影響もあると、信ぴょう性もあるようだ。
「いや、動物好きな武家が、偶々その手の力を有していたから、道楽で始めただけなんだ」
と、現当主の一樹は笑っていた。
「食べさせることのできる動物なら、育ててみたいと方々でかき集めて、養ってただけだ」
その次代が、どうせなら、十二支の生き物を集めようと、考え付いたのだと言い、男は改めて名乗って現在の職業を告げた。
「今は細々と、フリーの記者をやってる。売れそうなネタなら、どのジャンルでも追うが、今回こちらに伺ったのは、事件の話を聞くためじゃない」
「……分かっています」
部屋で休んでいて呼び出された和泉の隣で、父親の和敏が神妙に頷いた。
一樹の隣に座る娘は、挨拶だけはしたがそれ以降口を利かず、父親を挟んで逆隣りに座る大男の気配を辿って、呆れているようだ。
対する篠原家側は、親子二人だけでこの家族と渡り合っていたら、間違いなく迫力負けしていただろうが、大男の真向かいに座った藤田夏生のお蔭で、落ち着いて接客を続けていた。
石川一樹は、父親の固さを嫌って家を出たが、今は記者の傍らその後を継いで、代々の当主が養っていた式神たちを、可愛がっている。
隣に座る大男は、名を
つまり、この誉が、噂に聞く架空のはずの生き物なのだと、親子は緊張したのだが、夏生は鼻で笑った。
「どちらかというと、落とし子、の方に近いのよ、淡水生まれだけど」
「……余計な事を言うな、この性悪狐」
「鱗があるってだけで、大きく持ち上げられるなんて、いいわよねえ」
向かい合った途端、険悪な二人だったが……和泉は内心、縮み上がっていた。
落とし子、鱗……そっちの、架空か。
そんな少年を見つめる誉の目は険しいが、固定された左腕の怪我を配慮してくれているのか、それ以上の攻めはなかった。
代わりに、一樹が切り出す。
「さしたる理由はないのですが、あなたや息子さんとは一度会っておきたいと思っていましたので、いい機会だと」
和敏が返す前に、夏生が返した。
「そちらの当事者は、いないのに?」
「代わりに、同じ立場の娘を連れて来てる。これで充分だろう?」
一樹が答える前に、誉が厳しい声で言う。
「雅に詳しい話は聞いたわ。あの子もその場にいた子に聞いたと言っていたけど。謝らせるにしても、代理にじゃあ、意味ないんじゃない?」
これじゃあ、家絡みの見合いの場だ。
時間は遅く場所も質素だが、男女それぞれの家族が顔合わせしている場と変らないと、夏生は突き放したが、それに答えたのはそれまで黙っていた少女だった。
「謝って欲しいとは、思っていません。あの子本人は、その子の元から戻った時、全く別な事で困っているようでしたから、気にしていないと思います」
耳を疑って顔を上げた和泉を見返し、少女は言い切った。
「大体、あの子が気にする問題でもないです。呪いを発動したのは私で、返されてきた呪い物を、跳ね返していただけの子に、どの程度の罰を強要する気ですか?」
石川一樹は十数年前、引き寄せ合うように術師の女と恋に落ちた。
名を
すぐに恋仲になり、間もなく子供を宿した。
念願の後継ぎを出産した後も、交際は続いていたが、数か月後突如連絡が途絶えた。
男児を産み落とした後体を崩し、それでも仕事を続けた結果、娘が小学校に上がる前に、命を落としたことを一樹が知ったのは、ごく最近だ。
幼いながらも母を受け継ぐ羽目になった堤
「……何か、あの方々の気に障ることを、口にしたのですか?」
あの夜の事を思い出しながら唸る和泉に、志門は首を傾げた。
「覚えてすら、いないのか」
こっちは、憎まれ口として選んだ言葉だったと言うのに。
「気に障る事ではあったようだが、それが目的じゃなかったようだ」
幼馴染や後輩を、結託させたことを考えると、石川家の旦那は本気だったようだ。
和泉はげっそりと溜息を吐いてから、歩き出した。
広い敷地の学園は、校舎を囲む壁を抜けるのにも時間がいる。
壁沿いに歩いていくと、道路を挟んで田畑が広がる。
その奥に、学校寮があり、周辺に民家が立ち並ぶ。
少し立ち尽くしていた間に、結託した連中は身を隠せたようだが、もう少しうまく隠れて欲しいものだと、諦観しながらもつい思ってしまった。
何をしているのかと、身を隠している連中がいる辺りを見つめ、首を傾げる志門に、気にしていたことを吐きだした。
「こっちは、売り言葉に買い言葉のつもりで言ったんだが……言い過ぎたと、思ってる」
きょとんとしている少年と向き合い、和泉は謝った。
「ただ、ガキだから許された奴と思っちまって、出て来ちまったんだ」
「ああ、それは、事実なので、一向に構いません」
思い当たった志門は、あっさりと跳ね返した。
目を見張る少年に、やんわりと続ける。
「その件の解決法は、今の私には考え付かないのです。先延ばしにしてはいますが、それが罰の対象になるのであれば、受け入れるしかないとも、思っております」
数年前まで、無意識にやっていたそれが、人を死に至らしめるかもしれない行為だと、知らなかった。
知った時は、色々な物に耐えられなくなって、古谷家から逃げた事もある。
今は、堤家の事も知り始めている所で、全てを理解してから事実に行きつければと、そう思っている。
「それより、あの件はあの後、とても困った事態になったのです」
「ん? どんな?」
そう言えば志桜里が、困った顔をしていたと言っていたなと思い出し、つい訊いてみると、少年は溜息を吐いた。
「市原君が結局、あの場に来てしまったでしょう? あの人や高野君だけであったのなら、問題なかったのですが……」
逃げていたはずの蓮が、同行していた。
しかもあの時、凪が和泉を攻撃するのを黙認したと、セイに知れたらと思うと、内心恐ろしくてたまらなかった。
「市原君たちは、病院から家に帰ったので、健一さん達に口止めするだけで、あの場は切り抜けましたが……」
後日、年始の挨拶に来た蓮が、正直に自己申告してしまった。
今では、解決の兆しのある件のついでに、その件も暴露した蓮は、剣の籠ったセイの目を受けながら、平然と会話をしていたが、弟子たちはその雰囲気に押され、逃げ出してしまったのだった。
「何故か、静さんの師匠が、今年は顔を見せて下さらず、長年の恨み言が延々と、吐き出されてしまう事態になってしまったようで」
そう言う文句が出て来るセイも、対する蓮の文句も珍しいのだが、そんな口喧嘩がなぜか、弟子たちからすると聞いていられないものらしい。
心底困った顔で言う志門に、和泉は曖昧に相槌を打った。
よく分からないが、何か含むところがあるのだろうと、感知することを放棄し、全く別な事を考えた。
一応謝罪も済んだことで、後は頼まれたことを実行するだけなのだが、これだけは今後の事を考えて、確認しなければならない。
「お前、何で凪を避けるんだ?」
直球の問いに、志門が立ち止まった。
「ど、どうして、そのような事を訊くのですか?」
「いや……」
逆に問われ、和泉は少し考えて答えた。
「いつも逃げるように避けてるから、あんななりの奴が、怖いのかと思ってな」
答えながら、動揺する少年を、珍しいと見つめる。
物珍しそうに見られているのに気づかず、志門は咳払いして何とか自分を取り戻した。
「怖いと言うより、苦手なのです。あのように、強く出てくる方が」
特に迫る様ににじり寄られると、反撃したくなってしまうと、少年は困った顔で白状した。
「なるほど……つまり、引き気味な誘いなら、受けても構わないと、そう言う事か?」
「? 誘いと言っても、一緒に帰ると言うお話しか、あの人は申し出ては来ませんが」
それは見ていたから知っている和泉は頷き、鞄から白い封筒を取り出した。
「こういうのは、興味あるのか?」
どうせなら、志門の姉を誘いたかった……つい、そんな事を内心嘆きながら、少年はその封筒の中身を見せた。
音楽コンクールの、無料チケットだ。
石川一樹に渡され、これで志門を誘ってくれと、半ば脅し気味に頼まれた。
「様々な楽器のプロの卵が集う、コンクールだそうだ。親父の会社も援助している」
「そう、なのですか」
チケットを見下ろしながら、志門は生返事をした。
「やっぱ、興味はねえよな」
何でよりによって、こんな眠くなりそうなもののチケットだ、と思っていた和泉は頷いたが、志門は戸惑って首を振った。
「音楽には興味はありませんが、演奏する人には、興味があります。そうですよね、あなたが一緒なら、気兼ね入りませんね」
「ん?」
「静さんも健一さんも、ああいう退屈そうな場は苦手なのだそうです。私は、一代復帰して挑戦する人を、応援したいと思うのですが、一人で行くのも不安で」
切り出された時、言い淀んでしまったと言う同級生に、話が見えない和泉は眉を寄せた。
「知り合いが、コンクールの出場者なのか?」
「ええ。姉が、フルートの奏者でエントリーしているそうです。父も仕事で行けそうもないと言っていたので、誉さんが秘かに応援に行くことで、話は終わったと思っておりました」
思わず、気の抜けた笑いが出た。
「何だよ、そう言う話だったのか。そう言う話なのなら、初めからあんな脅し紛いな頼み方、するなよな」
気が抜けたまま、誉が秘かに応援? 無理だろうと、心の中で突っ込んでしまいながら、和泉は改めて切り出した。
「気張ったコンクールでもないようだが、制服着てりゃあどこでもなんとかなるもんだろ。丁度、祝日だし、行くか? オレと一緒じゃあ、色気も何もないが」
「? そう言う事なら、こちらからお願いしたいです。こういう事は、所作が分からないのです。この機会に勉強させていただければ」
志門が表情を和らげ、和泉に頭を下げるのを、隠れて見ていた弟子仲間たちはほっとして見守った。
「……何で、あんなにあっさりと誘いを受けるのっ? 私の何がいけないのよっ」
「鬼の怖さが、勘に訴えてるんじゃないのか?」
和泉の幼馴染たちの声を聞きながら、健一と静はしみじみと頷き合う。
「ああいう男と親しくなっても、悪い影響しか出ないかも知れませんが、いないよりはましですよね」
「影響なんかでないさ。志門さんが、そう簡単にぶれるはず、ないだろ」
「……と言うか、あの人の友人と言う立場は、重いと思うんだが」
健一の様に、多少力があるだけの元気な少年と仲良くなるのとは、訳が違う。
これから、どんな関係性の友人になるのか見当もつかないが、伸は静かに見守っていこうと思う。
篠原和泉と古谷志門が、本当に心を開いた親友同士になるのは、もうしばらく後だが、人生を全うするまで、その関係性は深く続くことになる。
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