僕が世界を守りすぎる。

獅子山らいおん

第1話 僕が世界で最強すぎる。

 異世界転生小説はめちゃくちゃ読み込んだので、いざトラックに轢かれても楽勝だと思っていた。

 頭の中はいつでも妄想でいっぱい。「最強スキルは」とか「まずはステータスオープンして」とか。過酷な状況だったらどうしようとか考えて、色んな知識をつけようと画策したが、豚の貯金箱の中身は雀の涙。まずは基礎からだ、と理科と社会と家庭科の教科書を読み漁ると、学年末のテストでちょっと順位があがっていた。うれしい。

 「おまえ、また妄想?好きだよなあ、理科。」

中学に入学してから友人関係はパッとしていなかったが、小説好きな友達ができた。休み時間に理科の教科書を見て、異世界転生の妄想をしていたらニヤけたところを見られたのだ。正直、終わったと思った。キモいなんて騒がれた日には、それからしばらくは教室に居づらくなるにきまっている。

 しかし、そうではなかった。俺も理科好き。と話しかけてくれ、そのうち、お互いに異世界転生小説にハマっていることを知った。

「明日、新刊発売、放課後行こうぜ。」

「いいよ。」

お財布が軽いのはこのせいでもある。今は貸し借りし合っているから、前よりはマシだけど。


「俺、買い物頼まれたから、一回家戻るわ。」

じゃあ先に店行ってるわ、と返事をすれば、自転車を漕ぎながら手を振られた。気をつけてけよー、なんて、聞こえるかどうかくらいの声をかけて、本屋に向かう。トラックにでも轢かれたらどうすんだ。


 異世界転生はしたいけど、友達と別れるのは嫌だなあ、なんて考える。心の底では異世界転生なんてあり得ないってわかってるのに、そんなことを考えてしまう。僕は妄想のとりこだ。なぜだろう。別に逃げたい現実があるわけでもなく、勇者になって人々を救いたいわけでもない。でもなんとなく特別になりたい。……最強の冒険者になりたい?いいね、最強。でも最強ってどうなれば最強なんだろう。やっぱり魔王を倒すしかないのかな……。


 信号が青に変わる。右よし、左よし、右よし。しっかり見て渡りましょう。


 ドン、と衝撃。


 空が見える。あれ?逆さま。そのまま、ドスン、と地面に叩きつけられた。


 なんで僕転がってんの。遠くからキャーという声が聞こえる。トラックが、とか、救急車!とか。


 ああ、轢かれたのか。何が「トラックにでも轢かれたらどうすんだ」だ。自分が轢かれてるんじゃないか。おかしいな、信号、青だったのに。


僕はそのまま、意識を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕が世界を守りすぎる。 獅子山らいおん @norisiron_sig

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る