第7話「久遠の帰途」-意味なき想定といわれなき回想-

今抱えている数多の幻想も願望もいつかは思い出として懐かしむ日々が来るのだろう。

その時はできるだけ飾り立てることなくそれと向き合いたい。

どれだけ非現実的だ、と言われようとも、だ。

降りしきる雪は全てを覆い尽くすだけのものではないのだから。


「鹿島様の見る”景色”はその全てが現実となる。」

…いかにも眉唾もののその噂だけが事前に得られたただひとつの情報だった。

しかしそれを聞くのすら半年以上の信用を積み立てた上でようやく聞き出せたものなのだ。

だがそれを真に受けなければならない程の深刻さを彼女は伝えてくれたように思えるので、疑いもせずその場は聞き入ったが全ての疑念は晴れなかったのが正直なところだ。

そしておっかなびっくりの戦々恐々という心持ちで望んだ今日のお目通りではあったが、あのような年端もいかない少女がかの女神顕現のときの陣頭指揮を執り、”宝物庫”の件を収め、今回の事案の主要戦略を組むと言う。

まるで狐につままれた気分なのは偽らざるところだ。

それにメインの戦力にはあの八剣の末娘を引き続き据えるという。

何でも古代の神々すら叩き伏せるとの触れ込みらしいが、実際にその場に居合わせた者は一様に口をつぐんでいるというではないか。

なにか口裏合わせが必須な厄介事を抱えているのか…?

もしかしたらうまくそこを突けたならば私にもこの神宮内での専任ポストが確保できるかもしれない。

下心の支配にたやすく取り込まれた彼女はすぐにアクションに移った…が、後日捜索願が出された事は言うまでもなかった。


「どうかしましたか鹿島様?」


「いえ、なんでもないわ。ちょっと不快な気配がよぎっただけだから。」


栞は命を賭して放たれたであろう呪詛をさらっと受け流して話に戻った。

お付きの巫女は何が起こったかも感知していない…もし呪詛が栞以外の者に向けられていたなら何百人単位の人間が血反吐を吐いてのた打ち回って地獄絵図を繰り広げていた事だろう。

そんな事を何も感じさせずに祓った呪いは霧散して跡形もなかった。

蚊を払った程度のリソースすら使わなかった栞はそのまま会話を再開する。

「それであの子とはまだ連絡が取れないと?」


半ば諦め顔でお付きの巫女へ今日何度目かの確認を取る。

有用な情報が帰ってくる事はもはや期待していない…そう精神的な慰めであった。

「そうですね…なにせ彼女は根無し草みたいなものでして…」


まあそうだろうな。栞は想定していたそのままの返答を受けて物憂げな表情を浮かべる。

その表情を見たお付きの巫女は、栞がもはや自分でうめを探しに行くと言い出す未来を予知レベルの現実感で受け取った…それは生きている実感が急速に喪失していくのと同等の感覚に襲われる事だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水瓶座の時代の乙女たち[エピソードif @sinati

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る