第6話「久遠の帰途」ー因果と要因の相容れない関係ー

「”天使”の崩壊による”摂理”の瓦解…?ごめんなさいそういう方面には疎いものだから基礎的な事から教えてもらえませんか?」

突如千里行きつけのカフェに呼び出された愛花は事態が把握できずに戸惑いのただ中にいた。

「そう?じゃあ因果律とか歴史の抑止力、修正力とかの分野の話になるけどいい?」

…ますますわからない。とりあえず思考整理が終わってから聞かせてもらいたい。


「つまり英雄という存在は歴史上の役目を終えたら強制的に退場させられる。どんな加護や異能を持っていてもそれは変わらないみたいね。ここまではいいかしら。」


まるで話を聞いてもらえない。やんわりと話を止めて帰ろうかと愛花が腰を上げようとした、その時。


「同じ原理で人間も”天使”化する事で人間社会にいられなくなる。真代詠ちゃんだっけ?覚醒した彼女が空の向こうへ飛び去ったのを貴女も見たはずよね?」


愛花はぎょっとして千里の瞳を凝視する。何故今その話が出てくるのか?

千里はその反応を見て満足したように頷き、頼んであったメープルラテを一口飲んで愛花の目を見つめ返す。

「そう、人間がイレイザー化するプロセスを真近で見た貴女の知見を教えてほしいの。

辛いことを思い出させるけど、協力してくれるわね?愛花ちゃん。」


形の上では選択肢を示した千里ではあったが、無論イエス以外の答えが出てくれば意識を奪って直接記憶野や精神に直接干渉する心つもりだ。

それを無意識に感じ取ってか、愛花は首肯だけを静かに返す。

そして思考を走らせ今後の展開を想定し始める。

表面上だけでもイニシアチブを握っておきたい。まず現状を確認しよう。


ふむ、わざわざここに呼びつけた意図までは繋がった。が、しかしそれで私に情報提供以外の何をさせようというのか?まさか話を聞いてはいお疲れ様などという和やかに終わる空気ではない。

許容をアクティブに行っている時点で千里さんの思惑に乗ってしまっているのは癪だが、今考えるべきことはそこでは無い。

もっと詠ちゃんに繋がる情報を引き出しておきたい。それでこれからかけることになる労力と等価交換な筈だ。

「それで、私はどこらへんから理解するべきですか?」


愛花は多重ミーニングの言葉をわざと投げかけてみる。

「そうね…まずは件の”公用地”と力の器の因果関係からおさらいしましょうか。」


「ええと、そうじゃなくて…」

意図的にはぐらかされて愛花は地団駄を踏む。


その様子を見て千里はようやく愛花の意図を汲もうとする気になったようで、デバイスを取り出し電話をどこかへかけ始めた。

「ハイ、Dr.ヘレン。今から少し時間を頂ける?そう、プロトタイプ「S」地区の崩壊、あの時の話を詳しく教えて欲しいの。そう、例の主人公君のお目付け役の彼女も勿論一緒よ…舞台の台本を渡すのは今だと思うから。」


千里はさくさくと段取りを進めていく。今この場でシナリオを組んでいるのだ。

どんなフラグも建て放題なのをいいことに様々なファクターを皿の上に盛り込んでいく…仕上がりは上々のはずだ。後は気持ちよく踊ってもらうだけ。

コンダクター万城目のコンサートライブ開演である。


その様子を眺めて、愛花はやれやれと思いながらも同行を許容し、放っておかれていたカプチーノに口をつけた。

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