第一章 ひとときの安らぎ9

 皆で向かったウォータースライダー。

 説明には、身長120センチ以下の子供は一人では滑ることが出来ないと書いてある。

 ただ、身長がそれ以上の保護者と一緒に、二人乗りの浮き輪の上に載る形ならば、問題ないようだ。

 二人乗りの浮き輪は借りることが出来る。

 つまりは総司か鈴華か宮子など、誰かと一緒ならばいいというわけで——。

 そこで切り出したのは鈴華だった。


「ルリちゃん、誰と一緒がいいですか?」


「パパがいい!」


 即答である。


「……そうですか」


 選ばれなくて、鈴華は少し残念そうだ。


「でも、ルリちゃんがいいと言うのならば、仕方ありません。総司さん、お先にどうぞ」


「悪いな」


 鈴華に一言掛けて、総司はルリに手を伸ばした。


「それじゃ、行くか」


「おー!」


 他のみんなに先んじて二人で階段を上り、ウォータースライダーの頂点へと向かっていく。

 そこで係員のお姉さんに二人で乗ることを伝えると、そのための浮き輪を用意してくれた。

 後ろに総司、前にルリと、指示に従って乗っていく。


「お兄さん、しっかりと妹さんを掴んであげて——しっかりと、離さないでいてあげてくださいね」


「わ、わかりました」


 少し緊張しながらも、総司はルリの腰に手を回した。

 とても柔らかくて、スクール水着越しにもわかる身体の温もり。顔が接近していることもあって、ルリの髪から放たれる甘い匂いが鼻腔に流れ込んでくる。

 それで少し、ドキドキしてしまった。


「準備はいいですか?」


「……ルリ、いいか?」


「うん、だいじょうぶ!」


「それでは、楽しんできてくださいね」


 その言葉と共にお姉さんの手が離れて、浮き輪がスライダーを下り始めた。

 徐々にそれは加速していって、


「パパ! たのしー!」


「そうだな、楽しいな!」


 全身で風を受け止めるように、ルリは両手を上げている。舞い上がる水しぶきを身体に受けながら、浮き輪はどんどんと下っていって——

 ゴールであるプールが見えてくる。


 どばああああんっ!


 勢いよく、浮き輪は着水。

 その衝撃を総司が抑えきることは出来ず、浮き輪から水面へと、ルリと共にそれぞれ投げ出されることになってしまった。


「ルリ!?」


 ぷはあっと水上に顔を出して、ルリの姿を探し始める。


「おい、ルリ!?」


 しかし、すぐに見つからない。

 見つかったのは、身体につけていた浮き輪だけで——。


(これ、まずいんじゃ?)


 もしかして溺れているんじゃないだろうかと思ったのだけど、


「ぷはぁっ!」


 すぐにルリが水面から顔を出してくれた。

 総司はそんなルリの元へと近付いていく。


「ルリ、大丈夫か?」


「うん、だいじょぶ!」


 総司の身体に両腕を回して、ニッとルリは笑みを浮かべた。


「すごく、すごくたのしかった!」


「そっか、って……」


 水に突っ込んだときの衝撃のせいなのだろう。

 ルリの右肩から、水着の紐が外れていることに総司は気付くことになった。

 そのせいでぺろりと水着がめくれて、まだおっぱいというには満たない——胸と表現したほうがいいだろうそれが、総司の胸元にあてられている。

 それでもピンク色の小さな粒の存在は、胸元に感じるもので……。


「そのままちょっと動くなよ」


「?」


 状況を把握していないのだろう。

 顔にはてなマークを浮かべるルリ。

 出来るだけ見ないようにしながらも総司は肩紐に触れて、水着をなおしていった。


「これで、大丈夫だ」


 たぶん、誰にも見られてないだろう。

 心の底から総司がホッとしたところで、何が起きていたのかルリは気付いたようだ。


「パパ、ありがと」


「……お、おう」


 照れながらも総司が答えたところだった。

 鈴華や宮子、樹たちも、次々にスライダーを滑り降りてきた。

 それからも、しばらくまたプールを楽しんで。

 遊び疲れてきたところでのことだ。


「そろそろ少し、休憩しようぜ」


 そんな樹の声掛けに従って総司たちはプールサイドへと上がり、自分たちの荷物などを置いてある場所に向けて歩き出した。

 その途中のことである。


「あ、総ちゃん! あれ見て!」


 声をあげたのは宮子だ。

 とはいったいなんであるのか。

 宮子が視線を向けている先へと視線を向けて、総司は確認する。

 プール内の一角にある小さなプール。

 そこで、イベントが開催されているようだ。


「さめさん!」


 総司と同じように視線を向けたルリが叫んだ。


「ルリちゃん、あれはサメさんではなくて、イルカさんですよ」


 すぐに指摘したのは鈴華だ。

 その通りで、確かにその指の先にあるのはサメではなくイルカだ。サメだともっと黒く、恐ろしい感じなので、間違いないだろう。

 二メートルくらいはあって、水の上に浮かべれば二人は乗ることが出来そうな遊具である。


「イルカさん……ルリ、イルカさん欲しい!」


 腕を引っぱられながら、要求してくるルリ。


「それなら、みんなであのイベントに挑戦しようぜ!」


 そう声をあげたのは樹だった。

 どうやらそのイルカの遊具は、今このプールでやっているイベント、『走って渡りまSHOW』の景品のようだ。

 プールの上に置かれたビート板の上を駆け抜けるゲームとなっている。

 本来は屋台か売店でジュースを買って休む予定だったのだが、参加賞でジュースを貰えるようなので、ちょうどいい。


「いいね、やろうよ総ちゃん! ルリちゃんへのプレゼント、ゲットしようよ!」


 宮子もノリノリ。

 やる気マンマンだ。


「……そうだな」


 パパとして、もちろんやるべきことだろう。


「ルリのために、頑張るか」


「総司さん、わたしも頑張ります!」


 続けてママ。

 鈴華は気合いを入れるように、ぐっと拳を握り締めた。


「絶対にルリちゃんに、あのイルカさんをプレゼントしましょう!」

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CHiLD2 -境界の破壊者- 箕崎准 @misakey

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