第一章 ひとときの安らぎ8

 総司はルリと、鈴華と、宮子と、クラスメイトたちと共に、敷地全体の中心にある流れるプールへとまずは入っていった。

 その中央には大きなウォータースライダーがそびえ立っている。


「奧は結構深いみたいだけど、大丈夫か?」


「……なんとか大丈夫そうです。人間の身体は、浮かぶように出来ているみたいですから」


「そ、そっか」


 総司がわざわざ訊ねたのは、鈴華がプールに入るのが始めてだからだ。

 というより、今日は鈴華をプールに慣れさせるために来たようなもので、泳げなくて当然。

 ちなみにルリも同じとはいえ、宮子の計らいによって浮き輪をつけているので、なにも問題はさそうだ。


「わーい、ぷかぷかー」


 ルリは浮き輪によって、楽しそうに水面に浮かんでいる。

 ちなみにこの野外プールは、浮き輪はもちろんのこと、ボールなどの遊具や、スマホも持ち込みオーケー。水中以外では、カメラの使用もオーケーとのことだ。

 なので総司はプールサイドでルリたちと一緒にボールで遊んだり、浅めのプールでルリと鈴華たちが一緒に遊んでいるところを撮影したりをしていた。

 もちろんプールに入って、泳ぐことだって——。


「それにしても、本当にすぐに泳げるようになったな」


 平泳ぎでプールを泳いでる鈴華に近付いて、総司は褒め称える。

 すると鈴華は泳ぎを止めて、


「それは、みなさんのおかげですよ」


 鈴華がこれまで海やプールで泳いだことがないことを宮子たちに告げると、驚きながらも、コーチしてくれることになったのだ。


(実際のところ、鈴華がカナヅチで、俺が泳ぎ方を教えるなんて展開になることも想像してたんだけど、そんなことはなかったな……)


 むしろいつもと立場が少し逆転したりして——なんて、そんな淡い期待もあったのだが、その可能性は、そもそもゼロだったようだ。

 すぐに鈴華は平泳ぎはもちろん、クロールだってマスターしてしまった。


「宮子さんをはじめ、みなさんのコーチがよかっただけです」


 と鈴華は言うが、普通はそうはいかない。

 素晴らしい運動神経を鈴華が持っているからこそ、出来たことだろう。

 総司は笹木から、鈴華の両親が運動神経に長けていて、戦闘能力に秀でていたことを聞いている。つまりは、それを引き継いだに違いない。先天的な才能があるということだ。


「ねえ、パパ!」


 鈴華と一緒に、プールサイドにあがったところだった。

 宮子の元に居たルリが駆け寄ってきて、声を掛けてくる。


「どうしたんだ?」


「ルリ、あれのりたい!」


「あれって……」


 ルリが人差し指を向けているのは、敷地の中央にあるウォータースライダーだ。

 そこに、宮子が近付いてくる。


「ということで、これから乗りに行かないって話を、ルリちゃんとしていたんだ。わたしも乗りたいと思っていたし」


「でも、ルリが乗れるのかな」


 不安といえばそれだ。

 ちょっと危険な気もする。


「さっき俺は、ルリちゃんくらいの子が滑っているのを見たぜ」


 続けて近付いて来た樹が教えてくれた。

 なら、身長制限などもないのだろうか?


「だったら、行ってみるか」


 総司は隣に立つ鈴華に視線を向ける。


「お前も行くだろ?」


「はい、もちろん! わたしもウォータースライダー、楽しみです!」

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