正解のない居場所

 佳代さんがしばらくして、「無理しないでね」と言って、帰ってしまった。

またしても2人きりになってしまった。たぶん、充が帰ってくるのが、あと2時間後だろう。

帰り際に、佳代さんからノートを貰った。そこには、親の身勝手な子育てに、心を痛めた子どもに対して、関わり方や対応の仕方などが書かれていた。

それに佳代さんは私に分かりやすい表現の仕方にしてくれたり、イラストを添えてくれていた。そこには色々なアドバイスが散りばめられていた。

冒頭の1ページに『毎日を普通に過ごすこと、心がけてください。それはきっと難しいことだと思います。でも、相手のペースに合わせ過ぎなくてもいいものです。毎日、話しかけ続けてあげてください。きっと陽太との心地の良い距離感を持つことができます。必要以上に、気にし過ぎないようにね。それは、かえって悪い影響になりますので注意してください。今の陽太くんはきっと大人を怖がってます。ただ、それを気にし過ぎてはいけません。子どもとは敏感なものなので、そのことに気づいてしまいます。常に、話しかけてコミュニケーションをとれば、毎日が楽しい生活がでいますよ。』

 反応は毎日のように薄いけど、話しかえるようになった。最初は、どの反応も無視されている気分に思い、腹が立つこともあった。ただ、充が陽太とは関わっている際、相手の反応など、気にしている様子などなかったことに気が付いた。これはきっと、今まで私も充にしてもらったことなのかもしれない。

 幼稚園に通い始めて、数ヶ月経ったとき、服を汚して帰った来たことがあった。きっと、いじめでもあったのかもしれない。何かしないといけないと思ったが、何をどうすれば正解なのか分からない。そんな時、いつも佳代さんに相談していた。その時は「本人から何か言ってくるまで、何も言ってはだめだ」とアドバイスをもらった。陽太にも男としてのプライドもあるのだろうし、何かすることで、問題をややこしくすることにもなるかもしれない。だから、直接、行動に移すことはしなかった。しばらくして、服を汚して帰ってくることは減っていったし、笑顔が増えた気がする。佳代さんは、いつも私のストッパーの役割を果たしてくれていた。

小学校に陽太が8歳になった時、私は充との娘である三葉みつはを産んだ。その時、少し陽太に対して当たっていた気がするが、どうにか乗り越えて来れた気がする。ただ、本当に物わかりのいい子で、問題を起こすことものなく育ったと思う。必要以上に気にしてる部分はあるのかもしれないが、常に、佳代さんの言う通り、気にしていたも仕方がないと考えていた。

 そんな陽太は20才の大学生になった。陽太は大学を入る際に、大学の寮に入っていたが、コロナでもあったので、一旦は自宅待機になった。その時は部屋で、授業をリモートで受けていた。

そんな折、10月を入った際に入って、陽太は大学の寮に戻り、三葉は学校に行っていた日、たまたま、会社が休みだった充から話したいことがあると言われた。

「今まで、黙っていたんだけど、陽太は雪乃の姉に当たる人の子どもだよ」

「どいうこと?」

そうんなことを言われて、どうしろと言うのだろう。すでに姉に当たる人は病気で亡くなっているらしく、直接は会うことはできない。これは陽太20才になったときに伝えるつもりだったとの告白だった。

 赤の他人だったと思っていた陽太が、実は甥だったことに対して、唖然としてしまった。それに、私に姉の存在がいたことも初めて知った。

 陽太を家に連れてきた時期に、充は私の母親を探していたらしい。私は母親の元を逃げるように出てきたので、今まで何も考えてこなかった。

 あの時、母親はすでに亡くなったいたらしく、それ以上は調べようもなかったらしい。ただ陽太のことを教えてもらったらしいく、その時、姉と思われる人と接触したて、お金で、陽太を売ったらしい。

姉という存在は母がお金を貰うために、見知らぬ男性との間に出来た子どもらしいく、産まれてすぐに養子にだされたか、施設で育ったかの経緯はよく分からないが、充の知る限りでは16歳の時は施設に居たことが分かっている。陽太を産んだのが17歳だったらしい。

 充がそれ以上のことを話そうとはしなかったので、何も聞かないことにした。聞いたところで、何も現状が変化することは何もない。

 陽太が本当に、私たち夫婦のもとで、育ったことが正解なのかは分からないが、私とっては充と出会って、心地のよい愛のある生活を送れてきたことは正解だと思っている。

たぶん、これが正解という場所はないのかもしれないが、それは見つけるしかないのかもしれない。


 

 

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