助け舟

 陽太は相変わらず、部屋の隙間にいる。もうどうしたらいいのか分からず、私が工場で働いていた時期にお世話になっていた佳代さんに連絡を入れた。ここから5分の場所に住んでいたこともあって、来てくれることになった。そのあいだ、何もしなくていいとも言われたので、何もできなかった。15分くらいして、佳代さんが来てくれた。

「大丈夫?また、充くんの仕業?」

「まあ」

佳代さん40代とも思えないほど、見た目は若々しく見るが、20代のお子さんがいて、なんでも親身に相談できる人だ。なので、すぐに頼ってしまう。

「こんばんは、陽太くん、少しおばさんとお話ししようっか」優しく微笑むように、相手に言ってる。私はどんな顔で、陽太に話しかけていたのだろうか。

「あっちで、お話しよう。身体に触るね」と言って佳代さんは、陽太の手首を掴んだで、ゆっくり引いた。反応は相変わらずないのだが、陽太は動いた。

ソファに座らせて、

「今日は天気がいいね」

「昨日ね、おばちゃん、おいしいタラって魚を食べたのよ・・・」

と佳代さんは自分の話をしはじめた。

「ねえ、陽太君は食べ物で何が好きかな?」

俯いて、反応はない。

「じゃあ、これから好きなものを見つけてようか?毎日、あそこにいるお姉さんがおいしいご飯を作ってくれるから、それを食べて、次に会うときに教えてくれない?」

反応はない。

佳代さんは、陽太をソファに置いたまま、こちらに来て、

「たぶん、すぐには何も変わらないとは思うけど、ちゃんと対応すれば大丈夫でしょう?」

「どいうことですか」

「必要以上に、考え過ぎるのが、雪乃ちゃんの悪い癖ね」

「はあ・・・」

佳代さんには何か見透かせれている気がした。

「うちの旦那から聞いていたけど、充くんも何を考えているのでしょうね。」もうすでに、情報は伝わっていることに驚きを隠せない。

「ごめん、雪乃ちゃんから連絡があったら、助けてあげてほしいって言われてたのよ」

充は私が困ることを分かっていて、事前に佳代さんに連絡をしていたのだ。

「幼稚園のことも聞いていてね。来週からでも受け入れてくれるって」

話は本当に、勝手に進んでいる感じがする。反対することもできないので。「はい」としか返事ができなった。

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